吉田 父にささぐ世界大会V15!階級変えても霊長類最強

[ 2014年9月12日 05:30 ]

世界V15を達成し日の丸を背負う吉田

レスリング世界選手権第4日

(9月4日 ウズベキスタン・タシケント)
 新階級で達成した世界V15は、天国の亡き父へ――。五輪非実施階級となった55キロ級から53キロ級に階級変更し出場した吉田沙保里(31=ALSOK)は、初戦から圧勝続き。決勝は昨年の55キロ級決勝でも対戦したソフィア・マットソン(スウェーデン)を6―0と寄せ付けず、前階級を合わせて大会12連覇を果たした。今年3月11日に父・栄勝さん(享年61)をくも膜下出血で亡くし、初めての大舞台で世界大会V15も達成。16年リオの実施階級での圧勝は、父に誓った五輪4連覇への序曲となる。

 いつもより笑顔は控えめだった。吉田はジャージーの上着の下に隠していた遺影を、表彰台の前でサッと取り出した。世界大会15度目となる最も高い場所が、この日だけは特別。金メダルと写真を近づけてみてもいた。マット上では肩車ができなかった最愛の人に何かを伝えたかった。「きょうはお父さんの月命日。どうしても勝って、金メダルを見せたかった」。

 ALSOKの大橋正教監督が「顔がこわばっていた」と振り返った緊張感は、初めての階級への挑戦という理由だけではなかった。3月11日、父が急逝。急きょ帰省し、遺体に寄り添い3日間、涙は途切れなかった。それでも、葬儀を最後まで見届けることなく、試合会場に向かった。あの日から半年。マットサイドの練習パートナーが掲げる遺影を見て、何度も自らを鼓舞した。マットで結果を残すことが、父の一番の望みだったことを思い出した。

 今年から挑戦している53キロ級では、55キロ級時代には不要だった減量が求められた。試行錯誤の期間には体重を減らしすぎ、動きが鈍ることもあった。体重が軽くなった分、わずかに腰高になり、脚が動きづらくなることにも気づいた。スパーリングを重ねて感覚を修正し、この大会は4戦中2戦はフォール、失点0。栄和人監督が「55キロ級の強さが戻ってきている。そこが沙保里の凄いところ」と、父から受け継いだセンスをあらためて評価した。

 準決勝では左肩を痛めた。決勝では、30秒で得点ができなければ相手に1点入る新ルールを、初めて体験した。「でも、あれで攻める覚悟が決まった」。前日は若い浜田が55キロ級を制し、五輪挑戦をぶち上げた。「でも、若い選手が勝つことで私も刺激をもらった」。31歳はすべてを吸収し、今も成長していた。

 世界選手権で55キロ級が始まった02年から昨年まで、五輪も合わせてタイトルを独占した。個人戦の連勝記録は184まで伸び、連続大会Vもちょうど50となった。それでも、勝ち続けることに意味がある。それを望んだ人がいるから。女性アスリート史上初の五輪4連覇を目指す2年後に向け「リオへの道のりが見えてきた」とはっきり言った。それこそが、天国の父への最良の報告だった。

 ▽レスリング女子の五輪実施階級変更 20年五輪からの除外危機があった昨年、国際連盟は男女の種目数をより均等にするプランを緊急採択。男子フリー、グレコローマンの2カテゴリーをともに1階級減の6、女子は2階級増で6とすることを決めた。これに伴い階級を再編。国際連盟が主催する世界選手権は3カテゴリーともに8階級と従来より1階級ずつ増えることになった。女子は五輪実施階級以外に55、60キロ級が世界選手権で実施されている。

続きを表示

この記事のフォト

2014年9月12日のニュース