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巻の姿を目に焼き付け…熊本出身の千葉GK藤嶋「必死に練習を」

[ 2016年5月23日 10:00 ]

<千葉・熊本>試合終了後、場内一周する熊本イレブンに励ましの横断幕を掲げた千葉サポーター

 5月15日に行われたJ2熊本のリーグ戦再開初戦を、ベンチから特別な思いで見つめる選手がいた。千葉の第2GK藤嶋栄介(24)。目の前の光景を目に焼き付けようとしていた。視線の先には、何度も競り、走り、肩で息をしながらボールを追う“先輩”がいた。

 「前半からあれだけ走ってて…。あのプレーに巻さんらしさが出ていた。たくさんの人が希望と勇気を与えられていたと思う。それを目の前にして、僕自身がピッチに立てていないことが、一番不甲斐なかった」。

 試合後、そう話す傍らには、巻誠一郎(35)を待つ大勢の報道陣。人もまばらな出入り口付近で、24歳は「あの巻さんの姿を目に焼き付けて、明日から練習に必死で取り組みたい」と言い残し、静かにスタジアムを後にした。

 実家は熊本市西区。地元も実家も4月14日、16日と続いた地震で被災した。地震直後、大津高の先輩・巻に連絡を取り「できることはないですか」と名乗り出た。巻のネットワークで物資をいち早く被災者へ届けられることを知ると、自らクラブに支援を打診した。

 4月18日に許可を取り付け、19日にはサポーターへ告知。20、21日の2日間で、13トントラックいっぱいの支援物資が集まった。「熊本を思う気持ちがこの中に詰まっている」。見ると、こみ上げる思いがあった。

 同23日の山口戦後には、自らも熊本入り。車内に水20ケースと非常食を詰め込み、知人と2人で福岡から地元に向かった。かつて通った道は消え、懐かしい近所のお店は「ぺちゃんこ」になっていた。

 お年寄りなどの中には避難所に行けない人もいると聞き、一軒一軒「手当たり次第に」訪ね歩いた。たった1本の水なのに、深く深く感謝された。「どれだけ大変なのか」と苦しさがしみた。

 自身の実家は家中にひびが入り「いつ崩れてもおかしくない」状況だ。恐怖の中、今も母・徳子さん、父・聖一さん、隣家の祖母・貞女さんは、すぐ逃げられるよう玄関近くで寝泊まりしている。

 今月9、10日にも実家の片付けを手伝いに帰った。甚大な被害を受けた益城町にも足を運んだ。見たもの、感じたものをこの先もずっと忘れまいと決め、千葉に戻った。

 両親からは「できることを頑張ってくれ」と背中を押されたという。藤嶋はその言葉の意味を噛みしめ、「強い気持ちを持ってサッカーをやることが両親に一番元気を与えられる」と信じ、出場に向け練習に励む。

 22日、熊本はJ2再開後の初白星を懸け、水戸との一戦に臨んだ。スポットライトの陰には、被災地への思いを抱き、黙々と走る選手がいる。熊本の選手の姿に奮起する、サッカー選手たちがいる。(波多野 詩菜)

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2016年5月23日のニュース