【G1温故知新】1985年菊花賞優勝 ミホシンザン
G1の過去の勝ち馬や惜しくも力及ばなかった馬、記録以上に記憶に残る馬たちを回顧し、今年のレースの注目馬や見どころを探る「G1温故知新」。第3回は1985年に皐月賞と菊花賞のクラシック2冠を制し、父シンザンの最優良後継種牡馬となったミホシンザン。
“ダービー馬不在の菊花賞”は結構な頻度で発生する。
さかのぼれば1990年には“ナカノコール”のアイネスフウジン不在の菊にて「メジロはメジロでもマックイーンの方」が覇を唱えたし、牝馬ウオッカが日本ダービーを制した2007年の菊では、マックの遺児であるホクトスルタンの夢をダービー2着のアサクサキングスが打ち砕いた。他にも1997年の“笑う菊に福来たる”、2002年の“乱菊”など、主役格が不在でもドラマが成立するのが菊花賞なのだ。
ただ“ダービー馬が海外遠征で不在の菊花賞”は、今まで2例しかない。最近の例はキズナが凱旋門賞に挑戦した2013年の菊。そしてもう一つの例は…シリウスシンボリが故あって“国外逃亡”してしまった1985年の菊である。前者は皐月賞馬(ロゴタイプ)も不在だったから、状況が今年の菊花賞に似ているのは後者だろう。
今から31年前、85年のクラシック路線を簡単に振り返ってみよう。
皐月賞を圧勝し、一躍3歳牡馬路線の中心となったのが“シンザン晩年の最高傑作”ミホシンザン。ところがその4日後に骨折が判明。最有力候補が離脱し、にわかに風雲急を告げる戦国ダービー。そんな中、群雄たちを抑えて天下を取ったのはシリウスシンボリだった。同馬は当時、馬主サイドと調教師サイドの対立が取り沙汰されていた。この問題がこじれた結果、逃げるようにダービー馬は欧州長期遠征へと旅立ってしまった。
一方の皐月賞馬は秋には復帰し、菊の前哨戦を二つ叩いた。その結果は2戦1勝。だが、復帰初戦のセントライト記念で彼は決定的な弱点を露呈してしまう。デビュー5戦目にして初めて土が付いた(5着)このレースの馬場状態は不良。そう、道悪が苦手だったのだ。
一応の名誉回復を果たした京都新聞杯を挟み、迎えた菊花賞前日。折からの悪天候のため、芝は十分に水を含んでいた。願わくば本番は良馬場で…ミホシンザン陣営の思いは届かなかった。翌日、馬場状態はある程度回復を見せたものの、それでもやや重が精一杯。中間、馬を落ち着かせることに尽力した担当厩務員は「悔いはない」と呟きつつも不安が胸に募り、鞍上の柴田政人も“2冠の重圧”とのダブルパンチに神経を尖らせていた。
それでもファンはミホシンザンを信じた。単勝オッズは実に1・8倍。2番手評価のスダホークは7倍台だったから、いかに馬券師たちの信頼を集めていたかが分かる。たとえ雨が残った馬場とは言えども、単枠指定で緑帽のミホシンザンが他の17頭を蹴散らすお膳立てはなされていたのである。
ミホシンザンは勝った。芝が良馬場に近い状態だったのも幸いしたが、持ち前の持久力、折り合い、末脚、そして唯一の敗戦で慢心が弾け飛んだことが、彼のレースぶりの巧みさを強固に裏付けたのだ。スダホークやサクラサニーオーがゴール前揃って差を詰めたが、恐らくゴール板を超えて走っても彼らは勝ち馬を追い越せなかっただろう。
2016年の皐月賞馬は、31年前の大先輩と同じくセントライト記念を前哨戦に使い、着差以上の強さで勝利を収めた。美浦の総大将たるディーマジェスティは、今のところ大きな弱点が見つからない主役候補だ。彼にミホシンザンが教訓を授けるとするならば「最大の弱点は前哨戦で吐き出しておけ」といったところか。TRで盤石の強さを発揮したこと。それこそが2冠に挑むディーマジェスティの強みであり、弱みでもある。
余談だが、先日の凱旋門賞でマカヒキは14着に敗れたが、ダービー制覇の翌年凱旋門賞に出走したシリウスシンボリの着順も同じ14着だった。歴史は、ほどほどに繰り返す。(文中の馬齢表記は新表記で統一)
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