伝説のラジオ番組「五木寛之の夜」 19年ぶりに一夜限り復活「持続するエネルギーを共有したい」

[ 2023年4月26日 05:09 ]

TBSラジオ「五木寛之の夜」に出演する五木寛之氏
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 作家の五木寛之氏(90)がパーソナリティーを務め、25年にわたり放送されたTBSラジオの人気番組「五木寛之の夜」が、19年ぶりに復活する。一夜限定の「五木寛之の夜 ふたたび」として、28日午後8時から1時間放送。同番組は1979~2004年に、主に深夜帯に放送された。久々の収録を終えた五木氏が本紙に思いを語った。

 番組では「話すことと聞くこと」を軸に、言葉のメディアであるラジオの過去、現在、未来を語る。一夜限りの番組復活は、五木氏自身が希望した。

 「集合離散のはげしいマスコミですが、およそ20年の時を超えて、かつての仲間たちとスタジオで再会するというのが第一のモチーフでした。同時に現在、かつてのリスナーたちと、過去の放送を想起することで、持続するエネルギーを共有したいと願ったのです。感傷的なノスタルジーからではありません」

 25年にわたり放送された「五木寛之の夜」では、五木氏がゲストの著名人からさまざまなエピソードを引き出してきた。山下達郎(70)、内田裕也さん、奈良岡朋子さんら、出演したゲストの音源を使いながら思い出話を紹介したい。そして、自身が過ごしたラジオ全盛期を振り返り、名パーソナリティーとして知られた永六輔さん、林美雄さんの活躍や、評判だったテーマ曲の話など懐かしい話もしたいという思いで、今回は自ら企画、構成まで考えた。たっぷりの内容で楽しませる。

 長きにわたり執筆活動とラジオ出演を続けてきた五木氏。ともに言葉を使う仕事だが、その共通性と違いをどう捉えてきたのか。

 「頭脳を介しての説得である執筆活動と、身体的共鳴であるラジオ表現とは、大きく異なります。リスナーと、感情、感動を共有するラジオ番組は機械化された日常への大きな刺戟(しげき)となる可能性があるのではないでしょうか。活字とラジオの間には、<静>と<動>のちがいがあり、また同時に<語りかけ>という共通性がある。ただ、ラジオの方が、より直接的なコミュニケーションがあると思うのですが」

 今回のテーマに据えた「話すこと」と「聞くこと」。五木氏は「思想の根本は“話すことと聞くこと”」と語る。「私たちの生活にとって、最も大事な条件ではないでしょうか。人間生活の最も重要な核心だと言っていい。“はじめに言葉ありき”とは、最大の至言だと思いますね。ブッダも、キリストも、ソクラテスも、ただ、ひたすら語り続けた人たちでした」

 ラジオこそ「話すこと」と「聞くこと」でつくられるメディアだ。ラジオの全盛期を過ごしてきたとあって、愛着は深い。今回の番組にはどのような思いを込めているのか。

 「かつてのラジオの黄金時代を懐かしむだけでなく、新たなラジオ文化を考えることが最大の課題ではないでしょうか。目をつぶって耳をすますと、かつての『小沢昭一的こころ』や、永六輔さんの『誰かとどこかで』、『パックインミュージック』などの番組の音がきこえる。“ラジオの世界よふたたび”という思いが少しでも伝わってくれれば、こんなにうれしいことはありません。などと偉そうなことを言うのは抜きにして、昔の仲間と楽しんでやったひとときでした。よくこんな勝手な番組を実現できたものです。関係者の皆さんに、改めてお礼を言わなければなりません」

 伝説のラジオ番組の一夜限りの復活。ファンならずとも必聴だ。

 ◇五木 寛之(いつき・ひろゆき)1932年(昭7)9月30日生まれ、福岡県出身の90歳。早大を中退し、編集者やライター、作詞家を経て小説家に。66年の「さらばモスクワ愚連隊」で小説家デビューし、小説現代新人賞を獲得。また同年に書いた短編「蒼ざめた馬を見よ」で直木賞を受賞。主な作品に「青春の門」(70年)、「戒厳令の夜」(76年)、「大河の一滴」(98年)など。

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