【内田雅也の追球】工夫の盗塁抑止力 クイックだけではないことを阪神は知ったはずだ

[ 2022年2月16日 08:00 ]

<阪神春季キャンプ>盗塁練習で及川(手前)の投球に佐藤輝(右)はスタートを切れず(撮影・後藤 大輝)
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 阪神の練習メニューに「盗塁練習」があった。今キャンプ初めてだ。

 午後、沖縄・宜野座村野球場でシート打撃終了後に野手陣が一塁走者となり、二盗を試みる。もちろん走者の練習だが、捕手の送球も、そして投手のけん制、クイック投法の練習でもある。

 投手を務めたのは右腕・馬場皐輔と左腕・及川雅貴の2人だった。

 目がいったのは及川だった。最初はのんびりと眺めていたのだが、打者に投球しているのに、走者がスタートを切れず、リードしたまま立ち往生している。一塁に帰塁してしまう者もいた。

 たとえば、江越大賀は3球連続でスタートを切れなかった。走者が交代し、佐藤輝明となったが、また2球連続でスタートできず立ち往生。3球目はけん制で帰塁できず憤死していた。

 投球かけん制球かを見分けづらいのだ。またセットしてからの間合いも微妙に変えていた。及川はこうして盗塁を未然に防いでいるわけだ。

 クイック投法はほとんど使っていなかった。投球タイム(投球始動―捕手捕球)は手もとのストップウオッチ計測で1秒17~55。合格点とされる1秒20を切ったのは1秒17の1度だけ。それでも走者を足止めしていた。

 プロ2年目の昨季、1軍デビューした及川は救援で39試合に登板。盗塁阻止成績を見ると、企図数6とあまり走られていない。そして半分の3度を刺していた。

 対照的に馬場はクイックが速く、1秒04など1秒10切りを連投していた。それでも近本光司に二盗を決められた。

 昨季、リーグダントツの114盗塁を記録した阪神は許した盗塁も50個で巨人の47個に次いで少ない。相手の盗塁企図数は75度で最少だった。梅野隆太郎や坂本誠志郎ら捕手陣の素早く、強い送球に加え、投手陣が走らせない工夫をしていたことが分かる。

 今月7日、赤星憲広(本紙評論家)をキャンプ臨時コーチに招いた日本ハム監督・新庄剛志は「一番教えてほしいのはどんな投手が走りにくいのか」と意図を説明した。赤星は「クイックが速いだけの投手はめちゃめちゃ走りやすかった。逆に遅くてもタイミングを変えられると、なかなか走れない」と話していた。

 この日、阪神もクイックだけではない盗塁抑止力を知ったことになる。 =敬称略= (編集委員)

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2022年2月16日のニュース