【内田雅也の追球】「結果」を求める「ひたむきさ」 阪神・大山の一打に“9月らしさ”を見た

[ 2021年9月2日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2ー1中日 ( 2021年9月1日    甲子園 )

大山のひたむきな姿勢が勝ち越しを呼んだ
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 ベンチの阪神監督・矢野燿大は「振れ、振れ」と思っていたそうだ。同じことを思っていた。

 6回裏、同点としてなお1死一、二塁、大山悠輔のカウントが3ボール―0ストライクとなった時である。

 打撃不振が極まり、試合前(8月31日)時点で打率、得点圏打率とも規定打席到達者でセ・リーグ最下位に沈んでいた。

 6番で先発したこの夜も1回裏2死満塁で投ゴロ、4回裏1死一塁では二ゴロ併殺打とブレーキ。甲子園の銀傘にため息が響いていた。

 カウント3―0となって、四球が頭に浮かぶ消極姿勢では何も始まらない。野球好きの米作家、ポール・オースターがジャズの名曲を例に出して言う『スイングしなけりゃ意味ないね』(デューク・エリントン)の場面だ。振らねば事は起こらない。自分で決めるという強い気持ちがほしい。

 もちろん、結果はほしい。何しろ9月なのだ。もう何度か書いてきたが、優勝争い正念場の月である。8月までと同じではいられない。監督の采配も、選手の姿勢も結果だけを求める月だ。

 だから、1点を追う6回裏、無死一塁での中野拓夢には送りバントを命じたのだ。9月の試合後半、1点の重みは増していた。打者も走者も盗塁王を争う俊足だが、手堅く1死二塁をつくった。これにジェフリー・マルテがミートを心がけた単打狙いの適時打で応えた。監督も3番打者も結果だけを求めていた。

 ただし、逆説的な言い方になるが、結果を求めながら、結果を気にしない姿勢がいる。

 番組制作のテレビマンユニオン創立者、萩元晴彦は<九月は出発の月>と書いた=『甲子園を忘れたことがない』(日本経済新聞社)=。高校野球で3年生が抜けた新チームだ。<九月の声を聞くと、私はおぼつかない、手さぐりの、しかしひたむきな私たちの高校二年の秋を思い出す>。

 そう、ひたむきでありたい。高校時代を思い出したい。プロ野球で言えば9月は優勝に向けて、再出発の月である。

 さて、3―0から果たして、大山は敢然と打ちに出た。外角低め直球だった。フルスイングで向かった。当たったのは先っぽでバットは折れたが、打球は右翼線に落ちてくれた。フォームもバットの芯も関係ない。不格好で結構。ひたむきさが結果を呼んだのだ。

 甲子園で7月12日以来51日ぶりの勝利は、9月らしさに満ちていた。 =敬称略= (編集委員)

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