今季で引退、日本ハム・田中賢の優しさに感謝 そして影響力の凄さも実感

[ 2019年9月25日 09:15 ]

<ロ・日25>7回無死、右翼へ二塁打を放つ田中賢(撮影・大塚 徹)
Photo By スポニチ

 9月、東京ドームで日本ハム・田中賢から声をかけられた。「大きな声が出るようになりましたね。あいさつできなくなったら、いつでも連れてきて下さい」。プロ野球選手の影響力は凄いなと感じ、今季限りで現役引退するベテランの配慮にも感謝した。

 3年前のことだ。長男は小学3年生だった。単身赴任していた自分を訪ねて札幌にやってきた際に、田中賢と初めて対面した。

 恥ずかしかったのだろうか。蚊の鳴くような声で「こんにちは」とあいさつすると、田中賢から「もっと大きな声で」と言われた。もう一度、「こんにちは」とつぶやいたが、「もっと大きな声で!」と繰り返された。そして3度目。「こんにちは!」と少し声を張ると、「よし!」と言って握手をしてもらった。

 それ以来、自宅でも長男から小さい声で話しかけられると、「おまえは賢介選手からなんて言われたんだ?」と言い聞かせた。

 小学6年生となり、あの頃よりも身長はずいぶんと大きくなった。夏休み中、長男は2年ぶりに田中賢に会う機会があった。「こんにちは」と声をかけられ、いつもよりちょっとだけ大きな声で「こんにちは!」と返事をした。「今日はちゃんとできたね」。そう褒めてもらうとうれしそうだった。

 ヤクルトから日本ハム担当となったのが08年だった。当時の田中賢はまだ独身。野球を追究する勤勉さは練習を見ているだけでも分かった。ロッテ担当だった06年に、薄暗い室内練習場で田中賢が一人で黙々と打ち込んでいるところを目撃した。

 その日は、ロッテの一部選手が日本ハムの室内練習場を借りて午後から体を動かすことになっていた。それを取材するために足を運んだが、かなり早く到着した。その際に見た姿だった。

 「こういう選手が活躍するんだろうな」

 そのときの田中賢は、レギュラーをつかみかけたところだった。その後、一流選手へと駆け上がり、結婚し、メジャーでもプレーしパパにもなった。

 現役生活も残りわずか。野球を追い求めてきたかつての鋭い表情も、柔らかさが目立つ。自宅に戻ると、長男は「賢介選手が覚えてくれた」とこちらが驚くほど感動していた。子どもたちにこれだけ影響を与えることができるのか。田中賢の優しさに感謝しつつ、プロ野球選手って凄いなとあらためて感じた。(記者コラム・横市 勇)

続きを表示

2019年9月25日のニュース