「打者・大谷」の評価急上昇 「フライボール革命」にマッチした打球の「変化」

[ 2018年9月22日 09:30 ]

エンゼルスの大谷
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 エンゼルス・大谷翔平投手(24)のメジャー1年目に密着する「Monthly Shohei」の9月編は、打者としての可能性を探る。右肘じん帯に新たな損傷が判明し、来季の二刀流が不透明になる一方で、「打者・大谷」の評価は急上昇している。野球物理学を専門とするイリノイ大のアラン・ネーサン名誉教授(72)の解説を基に、MLBを席巻する「フライボール革命」にマッチした大谷の打球の「変化」に迫る。 (奥田 秀樹通信員)

 イリノイ大のネーサン名誉教授は、野球に関する物理学を専門としている。最近では、MLBの飛ぶボール疑惑に関して、ロブ・マンフレッド・コミッショナーの依頼を受けて、自らを中心とする10人の専門家グループを結成。今年5月には、「ボール自体に変化はないが、空気抵抗が弱まり、より飛ぶようになっているのは確か」との調査結果を発表している。そんな専門家が、大谷の打撃について、一つの仮説を立てた。

 「今のMLBでは、多くの打者が意識的にスイングを変えている。打球の角度を上げるには、2つの方法がある。一つはボールの中心よりやや下を叩く。もう一つはスイングプレーンと呼んでいるが、ダウンやレベル(水平)だったスイングをアッパーにする。大谷は想像だが、スイングプレーンに適応したのではないか」

 注目すべき数字がある。開幕から右肘痛で離脱する6月4日までと、故障者リストから復帰した7月3日以降で、明らかに打球の「質」が変わった。一般的に、打球の種類は打球の角度で決まる。

<1>5度未満=ゴロ

<2>5〜20度=ラインドライブになることが多い

<3>21〜50度=フライになることが多い

<4>51度以上=ポップフライ

 離脱前は(1)が全打球の53・2%と半分以上だった。このため、速い打球を打っても、内野手を右方向に動かす、いわゆる「大谷シフト」にはまるケースが多かった。しかし、復帰後は(1)は36・8%に減少し、対照的に(3)が24・6%から30・8%に増加。離脱前に1本もなかった(4)も11・1%に増えた。

 ネーサン名誉教授は「ボールを飛ばすのに最も大事なのは、打球速度と最適な角度。角度は25〜30度が理想。ボールの下を叩きすぎると、バックスピンが多くなるが、逆に角度が上がりすぎ、打球速度は低くなる」と解説する。大谷は元々、MLBでも屈指の打球速度を誇っていた。それが(3)の打球が増えたことで、本塁打率(1本塁打に要する平均打数)は21・8から12・4に向上し、長距離打者の評価基準となる長打率やOPS(出塁率+長打率)も上がった。

 この「フライボール革命」にいち早く適応した選手として、同名誉教授はレッドソックスの強打者J・D・マルティネス外野手(31)を挙げる。タイガース時代の16年は22本塁打だったが、昨季は45本塁打、レ軍移籍1年目の今季はリーグ2位の41本塁打を放っている。「彼は意図的にスイングを変えたことで、メジャーを代表するスラッガーになった。ヤンキースのスタントンはラインドライブが多すぎる。あのパワーがあれば、スイング角度を少し変えれば、もっと本塁打は増えるのに…」。そして、大谷については「まだ24歳。打者のプロダクション(得点生産能力)のピークは27、28歳なので、これからどんどん良くなっていくのではないか」と大きな期待を寄せた。

 天性の打球速度に「角度」が加わった打者・大谷。「フライボール革命の申し子」となる可能性を十分秘めている。

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