【日本シリーズ回想】ミスター箱根伝説、地獄の伊東キャンプ…由伸巨人の新伝説期待

[ 2017年10月28日 11:30 ]

ブルペンで投げ込む江川卓投手(手前)を、厳しい表情で見守る長嶋茂雄監督
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 【あの秋〜日本シリーズ回想〜(5)】数々の好勝負が演じられた日本シリーズの陰で、今も語り継がれる伝説が生まれた。1979年の巨人・伊東秋季キャンプである。この年、長嶋茂雄率いる巨人は5位に沈んだ。王貞治、柴田勲、高田繁、堀内恒夫らのV9メンバーに衰えが見え、若返りが急務の状況にあった。

 10月27日午後、伊東駅前は歓迎の人波で埋め尽くされていた。再建を願うファンの熱い思い。肌で感じた長嶋は顔を真っ赤にしてバスに乗り込んだ。

 厳選18人の少数精鋭。平均年齢は23・7歳だった。投手は江川、西本、角、鹿取ら6人。野手は中畑、篠塚、松本、山倉らいずれも後に主力に成長した若武者たちだった。早朝から日没まで野球漬け。「救急車を呼ぶから東京へ帰れ!」。容赦ないノックを浴びせる長嶋。怒声が伊東スタジアムに響き渡った。圧倒的なオーラと統率力。時に43歳だった。

 思い出がある。ある日。いつもより早くグラウンドに足を運ぶとジョギングを終えた長嶋がいた。千葉・佐倉一高3年の1953年秋、立大野球部のセレクションを受けたのがこの球場だった。国民的ヒーローへの階段を上り始めた思い出の地。「あの辺りを抜けた二塁打で合格が決まったんです」と懐かしそうに左中間を指さした。

 次の休日にはドライブする機会をいただいた。行き先は現役時代、山ごもりの場だった伊豆・大仁。「徹底的に鍛えました。だから箱根の山は隅から隅まで知っていますよ。エエ、足柄山の金太郎のようにね。どの茶屋の娘さんが可愛いとかもね、エッヘッヘ」。大仁から箱根はかなりの距離がある。本当だろうか。川奈ホテルでカレーライスをご馳走(ちそう)になりながら悩んだが、真偽は今も分からない。

 各球団が今日のような秋季キャンプを始めたのはこの伊東キャンプがきっかけ。それまではシーズン後に組織だった練習を行う球団はなかった。今季、11年ぶりのBクラスに甘んじた巨人の宮崎秋季再建キャンプが11月1日から始まる。新たな伝説の誕生を期待し、見守りたい。=敬称略=(宮内正英編集主幹)=終わり=

 ◆1979年の伊東キャンプ リーグ5位の低迷を鑑み、1936年以来43年ぶりに秋季キャンプを復活。「最大のポイントは選手の意識改革」と提言した長嶋監督の下、若手18選手が参加した。静岡県伊東市のグラウンドに拠点を置き、25日間、毎日午前10時から約7時間の猛練習。投手は1日平均10キロの走り込み、野手は1000スイング以上の打撃練習が義務づけられ、初日には全員に1000本ノックを課すなど厳しさを極めた。

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