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障がい者が健常者の記録を上回る競技 パワーリフティングの魅力とは

[ 2016年4月26日 08:20 ]

パワーリフティングのリオデジャネイロ・パラリンピック日本代表候補の大堂秀樹(右)と西崎哲男

 先日、パワーリフティングのリオデジャネイロ・パラリンピック日本代表候補選手2人が決まり、都内で会見が行われた。パワーリフティングは五輪にはなく、一般的にはまだ馴染みの薄い競技だが、筋トレ好きなら誰もが知っている「ビッグスリー」(ベンチプレス、スクワット、デッドリフト)のこと。パラリンピックでは、その中のベンチプレスで競う。この競技の日本代表選手に内定したのが、3大会連続出場となる88キロ級の大堂秀樹(41=名古屋眼鏡)と陸上から転向して初出場となる54キロ級の西崎哲男(39=乃村工藝社)の2人だった。

 私にとって初めてのパラ・パワーリフティング取材。驚いたのが配られた資料にあった、選手の過去の大会成績だった。大堂の競技実績の中に「2011年2月 ジャパンオープン・ベンチプレス選手権大会(健常者大会)優勝」とあった。大堂は18歳の時に交通事故で脊髄を損傷し、下肢に障害を持つアスリート。その彼が健常者の大会で勝っていたのだ。話を聞けば、パワーリフティングは障がい者が健常者を上回ることが可能な数少ない競技だと言う。

 どうしてそんなことが可能なのか?日本パラ・パワーリフティング連盟の吉田進理事長はこう教えてくれた。「上半身の力の勝負だからです」。パワーリフティングでは背中を反ってバーベルを持ち上げることはできない。それは下半身の力を使うことができないということ。上半身の力だけが頼りだ。同じ体重なら、下肢に障がいを持つアスリートの方が健常者より上半身の筋肉量が多い場合がある。それゆえ、障がい者が健常者を上回る可能性があるという。納得だ。

 だが、吉田理事長はこうも教えてくれた。「不思議なんですが、スーパーヘビー級(無差別級)の世界記録も健常者より障がい者の方が上なんです」。障がい者の世界記録は295キロで、健常者のは270・5キロ。同じ体重なら障がい者に有利に働く可能性のある競技だとは理解できたが、無差別級では説明がつかない。吉田理事長は「(下肢障がい者は)上半身が高度に発達するとも言われるけれど、証拠はない。まだ誰もその理由をわかっていない」と続けた。

 大堂は競技歴19年で、非公認の国内大会では200キロを上げたこともある(公認自己ベストは196キロ)。41歳となった今もなお進化を続けている。「自分は力比べがしたいだけ。どんな選手にも勝ちたい」と意欲が衰えることはない。リオでの目標は前回ロンドンの6位を上回ること。そして、その視線の先には20年東京がある。「嫌らしい言い方かもしれないですけど、メダルを獲れば格好いいじゃないですか。50歳までできる競技なんで、東京のメダルのために計画を立てています」。パワーリフティングは40代でも記録が伸びるというが、いったい人間の肉体は何歳まで進化できるのだろうか。

 パワーリフティング初取材でわかったのは、理屈を超えた競技、非常に奥の深い競技であるということ。次は大会を取材してみたい。(柳田 博) 

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2016年4月26日のニュース