素晴らしきかな、“絵になる”シトロエンの佇む街角 /溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳【傑作選・その4】
パリに行きたし、あまりに遠し…。
そんなパリへの恋焦がれる想いを乗せて、今回はフランスの街並みとは切っても切れない“絵になる”シトロエンたちを水彩画でご紹介いたします。
日本では変わり者が乗る車の代名詞のように言われるシトロエンですが(え、言われてない?)、フランスではタクシーとしても普通によく走っており、フランスの多くの人々に愛されている自動車メーカーです。特に古いシトロエン車は、それぞれの家族の思い出の中に必ず一台は顔を出す、ファミリーヒストリーの一部のような車といえるでしょう。
ボクが頻繁に通った90年代中頃から2000年ごろまでは、まだパリではオールド・シトロエンを街中のそこかしこで見ることができた、良き時代でした。
今回のタイトル画像に選んだ、モンマルトルの坂の上で見たシトロエン2CV(ドゥーシーボー)を見てください。このようなパネルごとやドアごとに色が違うシトロエンやルノー キャトルは街中にたくさん走っていました。どこかをぶつけて修理交換するときに、解体屋にたまたま有ったボディパネルを適当に買って付けてしまうためにこんな姿になったと思われますが、その色の組み合わせがまたパリらしく、絵の題材にぴったりの光景でした。
そしてこちらはマレのフランブルジョワ通りの終わり、素敵なカフェがある交差点を走り去る“2馬力”。シックなグレーが魅力的で、ちょうど差し込んだ西日とのコントラストが美しく、慌ててシャッターを切ったものです。ここは29番という路線バスが走っていて、2000年当時、その路線を走るバスは車体後部が外に開けたデッキになっており、細い道を走るときにそこから眺める光景はまるでゴンドラから見る景色のよう! ボクたちは勝手に“船バス”と呼んで好んで乗ったものでした。
こちらはぐっと時代が下って2014年、今のところボクが最後に行ったパリで見たシトロエンです。同じくマレのフランブルジョワ通り。細い道の両側に雑貨屋やブティックが立ち並ぶ、ボクの大好きな通りですが、そこを夕食後――夏のパリでは夜10時まで明るいので、レストランは午後9時過ぎからお客が入り始めます。ボクたちは子供もいたので、キッチン付きのアパルトマンホテルの部屋で6時過ぎには夕食を済ませていたのでした――の8時ごろに散歩していたら、広告をつけたシトロエンが何度も往復しているのに気が付きました。調べてみると観光用に展開されている、2CVを使ったツアー付きのタクシーとのこと。お兄さんも縞々シャツで雰囲気が楽しげでした。
こちらはやはり昔、坂の町モンマルトルで見たお仕事用のシトロエン アカディアーヌ。2CVの後継車として開発されたものの、なぜか2CVより早く生産中止されてしまったディアーヌのお仕事用のフルゴネットタイプの商用車です。このようなお仕事用のバンはどれもグラフィックが素晴らしく、今になって思えばもっと写真を撮っておくべきだったと悔やまれます。
2010年に『ル・マン クラシック』に行ったときには、帰りにパリで泊まって夏のパリを楽しみました。こちらも夕食後の9時過ぎにヴィラージュ サンポールという骨董屋が並ぶ小さな路地で見た、きれいな空色のシトロエン アミ8です。ここはスーパーマーケットの『モノプリ』の駐車場で、車を見ていると大きな茶袋を抱えたきれいな若い女性が現れました。「素敵な車ですね」というと彼女は微笑んで、心地よい音を残して発進していきました。
こちらのシトロエンは、XMが発売されるまでシトロエンのフラッグシップだった大型のCX。金色の美しい車体が沈み込み、フォアグラ屋さんの前で素晴らしい佇まいを披露していました。
最後にやはりパリに最も似合う車、シトロエンDSをあげておきましょう。
こちらは16区のアパルトマンに泊まったときに近所で見かけた、なんとも美しいゴールドのシトロエンDSです。初夏の緑にピカピカの外装が美しく、16区の高級住宅街でメルセデスのオープン――パリではオープンのまま停めている高級車をよく見ました――の後ろに駐車しているDSの醸し出す雰囲気は素晴らしいものがありました。
フランスへの郷愁の念は強まるばかり。でも、このご時世、パリの空はあまりにも遠い…。
良き時代に何度も訪ねることができたパリ。そこで見た車たちや街並みの風景は、ボクにとっては大切な宝物です。もうパリに行ってもこんな光景は見られないのでしょうか…。それでもやはり、また、いや、何度でも行ってみたい場所なのです。
(初出:『豊かなり、シトロエン佇む街角』 2022年2月26日 編集部により一部改稿)
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