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尚弥vsカシメロ 3団体統一戦が実現していたら…“比の怪物”と日本人で唯一対戦 山下賢哉らが分析

[ 2020年4月21日 05:30 ]

WBA&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(左)とWBO王者ジョンリール・カシメロ
Photo By スポニチ

 米ラスベガスで25日(日本時間26日)に予定されていたWBA&IBF世界バンタム級統一王者・井上尚弥(27=大橋)とWBO王者ジョンリール・カシメロ(31=フィリピン)の3団体統一戦は新型コロナウイルスの世界的大流行で延期となった。海外からも注目される3階級制覇王者同士の一戦。カシメロとはどんな選手?試合展開は?日本人で唯一、カシメロと対戦した山下賢哉(23=JBスポーツ)らの証言から分析してみた。

 昨年2月17日、山下は敵地フィリピンのケソン市でカシメロとノンタイトルの10回戦を戦った。対戦までの準備期間は2カ月ほどあったが、映像で見た印象と実際に肌で感じたものが大きく違っていたと明かす。

 「映像だと、どうしても技術的なところに目が向くので…いけるかなと思っていたけど、全然駄目でした。映像とは別人でしたね」

 5回に左アッパーを浴びて鼻から出血し、6回TKO負け。その後、左眼窩(がんか)壁と鼻骨を骨折していたことも判明した。

 「とにかく、ちゅうちょせず、メチャクチャ大振りしてくる。それは分かっていたことだけど、ハンドスピードとは違う一瞬の速さみたいなものがあって防げない感じでした」
 ともに強打自慢の好戦的な選手。だが、なかなか山下のパンチは当たらず、逆にカシメロから何度も痛打を浴びせられた。

 「細かい技術は全くないんですよ。動物的というか、本当に本能で動いている感じ。振りが大きいから体は流れるんだけど、ちゃんと頭を動かしながら戻るとか、想定外のパンチも来るし…長くやってきて自然に身についた感じなのかな」

 山下は井上がWBO世界スーパーフライ級王者時代に約2カ月間、スパーリングパートナーを務めた経験もある。15年12月のパレナス(フィリピン)戦の前のことだ。

 「自分の受けた感じだと、パンチの強さはカシメロの方が上だと思いました。もちろん試合とスパーではグローブの大きさが違うし、当時の尚弥さんと比較してですけど…」

 ただ、勝敗に関しては「序盤で井上のKO勝ち」を予想する。根拠としては総合力の違いを挙げた。

 「評価を示す五角形の表で言えば、尚弥さんは全部が凄い。カシメロは大きく欠けている部分がある。武器が一つしかない。怖いのは中間距離からの飛び込みだけど、尚弥さんは、あれをもらう人じゃないと思います」

 結果は完敗だったが、カシメロは山下のプレスに後退する場面もあり、弱点も見えていたという。

 「ボディーの弱さは明らかですね。露骨に嫌がるから、誰が見ても分かる。振りが大きいから接近戦も得意じゃないかも。僕はやろうとしたことができなかったけど。尚弥さんは自分から仕掛けていくと思うんです。カシメロがそれをさばけるとは思えないし、逃げ切れないでしょうね」

 井上へのエールを求めると、山下はこう言って笑った。

 「僕はカシメロを応援します。だって、カシメロが勝ったら僕の評価も上がるじゃないですか」

 ◆山下 賢哉(やました・けんや)1996年(平8)7月29日生まれ、東京都板橋区出身の23歳。15歳でボクシングを始め、13年12月、17歳で古口ジムからプロデビュー。14年全日本フライ級新人王。17年4月に白井・具志堅ジムに移籍し、同年8月に初代日本スーパーフライ級ユース王座を獲得した。身長1メートル66の右ボクサーファイター。

 《尚弥に隙なし カシメロvs山下生観戦 三迫ジム・三迫会長》山下とカシメロの対戦を仲介したのは三迫ジムの三迫貴志会長(46)だった。山下戦を含めて3度、間近でカシメロの試合を生観戦しており「ライトフライ時代から定評のあったパンチ力は増量とともに威力が増した。キャリアも長く、うまさもある」と高く評価する。

 三迫会長はフィリピン選手共通の特徴として「倒して勝つというスピリット」を挙げる。「自国でチャンスが少ない彼らは海外に出るしかない。敵地で判定で勝つ難しさも知っている。だから最初からフルスロットルだし、振りも大きい。そういうスタイルが染みついている」と解説。カシメロについて「それが進化した形」と表現し、「大振りしてもバランスが崩れない。雑に見えるけど緻密さもある」と指摘した。

 カシメロは体重超過で王座を剥奪されるなどコンディションづくりが不得手。当時は「前マネジャーと決別して先が見えない状況」だったそうだが、2カ月後には3階級制覇を達成した。三迫会長は「自分の力でチャンスをたぐり寄せたメンタリティーは凄い。MPプロモーションと契約してパッキャオという後ろ盾を得たこともプラス。勢いを感じる」と警戒感を示す。ただ、井上の勝利は揺るがないとみている。

 「尚弥はドネア戦を経験して、さらに成長した。ドネア戦の前の井上でも負けないだろうけど、本当につけ入る隙がなくなった。一方のカシメロもドネア戦から勝機を見いだしたんだろうけど、尚弥ならカシメロのパンチは見切れる」と分析し「リングで驚くのはカシメロの方じゃないかな」と予想した。

 《尚弥、問題なし 尚弥と世界戦を戦ったただ1人の日本人河野さん》過去に井上と対戦した日本人は3人。世界戦として対戦したのは元WBA世界スーパーフライ級王者・河野公平さん(39)だけだ。16年12月、WBO王者だった井上に挑戦し、6回TKOで敗れた。「世界戦を10回やりましたど、井上君が一番強かったですね。左ジャブが右ストレートぐらい威力があって、右はその3倍ぐらい強い。自分も3カ月前までは世界王者だったのに、こんなにもレベルが違うんだと…」

 河野さんは、18年11月に引退したが、その後も井上の試合は注目してきたという。「階級を上げて減量苦から解放され、切れもパワーも総合的にアップした」と分析。「ボクシングに絶対はない。一発がある相手なので怖いし、前回のケガの影響も心配」と指摘した上で「試合当日に普通のコンディションであれば、問題ないと思います」と井上の勝利に太鼓判を押した。


 《尚弥、前半でKO勝利 最も直近にスパーした石井渡士也》日本人では最も直近に井上とスパーリングを行った日本バンタム級ユース王者・石井渡士也(19=REBOOT.IBA)は「カシメロのことはよく知らないけど」と前置きした上で、「尚弥さんの圧勝」と断言した。井上とは1月末から3月上旬までに5度、計22ラウンドのスパーを行い、その強さは身に染みている。“井上の今”を最も知るホープは「パンチの的確さが違う。耳裏、テンプル、顎…ピンポイントで狙って当ててくる。それも軽いパンチではなく、一発一発が速くて強い。カシメロは6回までもたないんじゃないかな」と前半でのKO決着を予想している。

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