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山中竜也さん 世界を制した手で握るおにぎりに込めた笑顔と元気

[ 2020年4月20日 05:00 ]

プロボクシング元世界王者の山中竜也さんはモットーの笑顔でコロナ不況に立ち向かう
Photo By スポニチ

 ボクシングの元WBO世界ミニマム級王者の山中竜也さん(25)は今、大阪の繁華街・北新地で「おにぎり竜」の店主をしている。世界を制したこぶしで、きらびやかな町の食通をうならせている。有明海産のノリに包まれた山形県のブランド米「つや姫」を口に入れると、ホロっと米粒がほどける。

 こだわりの具だ。減量中の癒やしだった卵黄のしょうゆ漬け、牛しぐれ、北新地ツナマヨ…。初防衛戦でカジェロス(メキシコ)を戦意喪失させ、8回TKO勝ちをしたパンチのごとく多彩だ。おでんに趣向を凝らした焼き魚といったお酒のアテも申し分ない。夜の社交場への出前、お土産も好評だ。17日で開店1年。仕入れ、売り上げ管理など慣れぬ作業も板についてきた。店の入れ替わりが激しい修羅場を戦っている。

 「いいお客さんに恵まれています。応援してくれて、逆に僕が元気をもらっています」

 突然の引退だった。18年7月のWBO世界ミニマム級2度目の防衛戦でサルダール(フィリピン)に判定負けした後、硬膜下血腫が発覚。ライセンスを失効した。まだ23歳。中卒叩き上げのアウトボクサーは、行き場を失った。

 第二の人生を模索する中、3社共同事業の店で料理人をしないかと、支援者の1人に声をかけられた。すぐ修行に出た。引退から9カ月後、リングのような四角い調理場が特徴的な新しい店にかっぽう着姿で立った。真正ジムの大先輩である世界3階級制覇、長谷川穂積さんから「世界戦の練習と減量ぐらいしんどいと思ってやった方がいい」とエールを送られた。

 元世界王者と知って来店する人は「2割程度」だ。知らない人に自分から栄光を口にすることはないという。自転車で世界戦の会場入りをした飾らぬ人柄が、お客さんに慕われる理由だろう。

 新型コロナウイルスの流行で、大阪府の要請に従い、夕方から深夜だった営業を、昼から午後8時までに変えた。影響をモロに受けているが、「お客さんにこちらが元気を分け与えられたら」と前を向く。店内に除菌装置を置き、サービス向上に励む。厳しい経済情勢だが、こだわりの味とモットーの笑顔で、12ラウンドを戦い抜く覚悟はできている。

 ◆山中 竜也(やまなか・りゅうや)1995年(平7)4月11日生まれ、大阪府堺市出身の25歳。小学校時代に漫画「はじめの一歩」を読んで興味を持ち、美原西中1年で近所の男性にボクシングを習う。当時から憧れは世界3階級制覇の長谷川穂積。同氏が所属する真正ジムに中2の夏から通う。高校に進まずジムの寮に住み、時給850円のカツ丼店でアルバイト。12年6月にプロデビュー。16年11月に東洋太平洋ミニマム級王座獲得、17年8月にWBO世界同級王座獲得。18年7月に2度目の防衛戦に失敗し、同8月に硬膜下出血のために引退。1メートル62。右ボクサーファイター。通算16勝(5KO)3敗。

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