【内田雅也の追球】謙虚で静かなヒーロー

[ 2025年4月6日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4―3巨人 ( 2025年4月5日    東京D )

<巨・神>7回、マウンドで話し合う石井(左)と坂本(撮影・木村 揚輔) 
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 試合の流れを整理してみたい。6回まで前夜と全く同じイニングスコアだった。

 阪神102000
 巨人100000

 3―1のまま動かず、「次の1点」がどちらに入るかが流れの分岐点になる展開だ。前夜は7回表に木浪聖也の満塁一掃二塁打で3点を奪い、勝利を決定づけた。

 この日は7回表、無死二塁の好機を逃した。その裏先頭に安打され、2回裏以来5イニングぶりの走者を許した。無死一塁で4番・岡本和真。一発同点。記者席で嫌な空気を感じていた。

 初球スライダーが外れた。坂本誠志郎は「ボールと表情を見て、考え過ぎてるなと感じたので」とタイムを取り、石井大智に駆け寄った。

 話の内容は機密だが、坂本は意図は説明した。「大智はいろんなことを考えるタイプ。できるだけ頭をすっきりしてもらいたかった。打たれる・抑えるという結果はわからない。できることをやるしかありませんから」

 再開後、再びスライダーが外れ2ボール。3球目はまたもスライダーで岡本は引っかけ遊ゴロ。併殺打に取った。岡本は相当に悔しがり、阪神は勝利を手繰り寄せた切所(せっしょ)だった。

 「併殺打を狙ったわけではありませんが、確かに大きなアウトでした。この球場は何が起きるかわかりませんから」

 3点差に広がっていた9回裏2死、岡本に2ランを浴びた。東京ドームは常に被弾と背中合わせ。一寸先は闇なのだ。

 だから、多くの捕手は勝っても内省的でいる。坂本のように思慮深く、謙虚になるのだろう。

 台湾出身の女性ジル・チャンが書いた『「静かな人」の戦略書』(ダイヤモンド社)に<「謙虚な人」がいいチームを生む>とあった。謙虚な人は自分の弱点や欠点を知り、チームの利益を優先し、常に勉強と練習を怠らない。その姿勢が<チームの雰囲気が和やかになり、メンバー同士が助け合うようになる>。

 冒頭に同じイニングスコアを記したが、伊集院静は『逆風に立つ』で<百万回ゲームをやっても同じゲームは一度としてない>と書いた。<日々、ヒーローは変わり、日々、勝者と敗者は生まれる。(中略)ひとつの勝利がもたらすものは選手にとってもファンにとっても真の価値であり、希望なのである>。

 チームに希望をもたらす、謙虚で静かなヒーローがいた。 =敬称略= (編集委員)

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