【元横綱・稀勢の里コラム】尊富士の新入幕優勝で感じた世代交代の波

[ 2024年4月10日 07:00 ]

春場所10日目に大の里(右)を押し出した尊富士
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 尊富士が110年ぶりとなる新入幕優勝を果たし、春場所は大いに盛り上がりました。24歳の若武者の快挙は喜ばしいことではありますが、その一方で新入幕にやすやすと独走を許した役力士の不振も気になります。照ノ富士が途中休場したとはいえ、上位の「壁」がもろかったのは事実。久々に世代交代の大きな波が押し寄せているなと痛感させられた場所でした。

 入門1年半の尊富士とわずか1年の大の里による優勝争い。極めて異色の場所となった最大の要因は大関陣の不振でしょう。最近はコンスタントに勝ち続ける大関が不在で、次の横綱に近いと感じさせる力士がなかなか出てきません。初場所が綱獲りだった霧島は何と5勝10敗。調子が悪かったとはいえ、相手にやられ放題の内容は本人ももどかしさでいっぱいではないでしょうか。豊昇龍も横に動いてまわしを取ったり、相手の攻めの反動を利用しての投げなどが目立ちました。2人に言えることは「自分の型」がないこと。私を含め周囲が言い続けていることです。貴景勝も首に不安を抱えるなかで勝ち越しが精いっぱい。大の里に完敗した内容も寂しいものがありました。

 その下に位置する関脇、小結も「ストッパー」になることはできませんでした。上位に「次がオレの番だ」と血気盛んに向かっていく力士がいないので、熱気ムンムンの若手の勢いに押し切られてしまった。大栄翔は負け越し、若元春も2桁には届かなかった。次期大関候補と言われてきた2人も春場所でやってきたことは間違いだったと思い直し、一からやり直すくらいの覚悟で臨まないとチャンスは来ないでしょう。

 アマチュアとプロの差がなくなったと指摘する声もあるでしょうが、大相撲の力士は型があるから強いという持論は変わりません。私の現役時代には右四つの白鵬、徹底的な突き押しの日馬富士と確固たる型を持つ力士が存在しました。最近は型のないまま番付を上がっていく状況で、それでも上位で通用してしまう。型をとことん追求していく力士が減っているのも心配の種です。

 歴史的な快挙は番付の崩壊という危機的な状況を生み出しましたが、逆に他の力士の目を覚ます起爆剤にもなったはずです。全力士が切磋琢磨(せっさたくま)し相撲界全体のレベルが上がっていくことを期待しています。 (元横綱・稀勢の里)

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