【ラグビー日本代表2021秋の陣《9》】一番の成長は心 姫野和樹がNZ武者修行でたどり着いた境地

[ 2021年10月18日 09:49 ]

姫野和樹
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 スポーツ界で「1サイクル」と言えば4年だ。イレギュラーだった東京五輪はともかく、あらゆるビッグイベントが4年に一度やってくる。春はアイルランド、そしてこの秋はオーストラリアと、4年前と同じ相手と対戦する日本代表にとっても、1サイクルでどこまで力を付けたかを測る上で絶好の機会となる。そして個人に焦点を当てれば、17年11月4日のオーストラリア戦でテストマッチデビューを果たした姫野和樹(27=トヨタヴェルブリッツ)もまた、スケールアップ具合を測るショーケースになるだろう。

 もちろん力量は証明済みだ。ファーストキャップは他の選手との兼ね合いでロック(4番)で先発したものの、直後の欧州遠征2試合は6番を付けた。翌18年はサンウルブズで活躍して足固め。19年W杯は全5試合に先発した。リーチやラブスカフニといった新旧主将をはじめとする海外出身選手がひしめくポジション争いの最激戦区で、日本人であることを言い訳にせず、正攻法で戦い、1桁台のジャージーを着続けている。「リーチさんはライバルだと思っている。負けたくない。超えていかないといけない」。2年前の3月に発した宣言は、今や十分に達成されていると見る人も多いだろう。

 今年上半期はラストシーズンとなったトップリーグには出場せず、ハイランダーズ(ニュージーランド)に所属しスーパーラグビーに参戦した。アオテアロア(ニュージーランド国内大会)では新人賞も獲得。その後のトランスタスマン大会ではファイナル進出に貢献し、決勝直後に渡英。1週間後の全英・アイルランド代表ライオンズ戦は途中出場から歴史的なトライをマークした。FW第3列として19年W杯からのスケールアップをしっかり証明したが、姫野本人は武者修行の最大の果実を「メンタルの部分が一番大きい。スキルはもちろんたくさん学ぶ部分があったが、一番はメンタル」と強調する。

 言葉も文化も環境も違う異国で、あえてストレスフルな状態に自分を追い込み、メンタルを整え、ラグビーで実力を発揮できるか。それは住み慣れた母国、プレーヤーとしての地位が確立されている日本を離れなければ、決して経験できないことだった。「元々は2週間だけフラット(集合住宅)でチームメートと過ごす予定だったけど、結局4カ月後に家(新居)を紹介されて、不動産屋でカギを受け取ったら違っていた」。ニュージーランドらしいルーズな仕事ぶりも笑って流せるメンタルスキルを養ったことが、不規則にはずむボールを前に運ぶ本業でも役立つと確信している。

 アオテアロアとトランスタスマンの間のオフには、緊張の糸が切れたように「メンタルが本当に落ちた。代表には行けないわ、と思った」という。自分が成功しなければ、もう誰もニュージーランドでプレーできる選手はいなくなる。過度のプレッシャーを自分に掛け、それを乗り越えたことでバーンアウトに陥った。残された時間は少ない。一度はエージェントに電話を掛け、春の代表招集辞退をほのめかしたというが、そこでも独力で、再び気持ちを立て直した経験こそ、何よりも得難いものだったという。

 「純粋にラグビーを楽しもう、と。日本を代表としてニュージーランドに来ている感覚を捨て、結果を残さなくてもいいし、日本人の価値が下がってもいいと(思うようにした)。どれだけラグビーを楽しめるかにフォーカスして、どれだけファンに“まだまだ”と言われても関係ない、と」

 ラグビーが好き。その思いを推進力に成長し、知らず知らずのうちに背負った義務感を乗り越え、再び原点に戻った。上を目指す人間が避けては通れないサイクルを、姫野は1周回って、大きくなった。「のちのちはフーパーやサヴェアに肩を並べて、2人よりも凄いと言われたい」。10月23日は、新たに掲げる指標との距離を測る絶好の機会となるだろう。

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2021年10月18日のニュース