金子達仁氏 大物退いたら大物…という発想に心底絶望

[ 2021年2月12日 08:10 ]

東京五輪・パラリンピック組織委員会 森喜朗会長辞任 後任に川淵三郎氏決定的

昨年11月、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長(手前)が来日した際、東京都中央区晴海の選手村を案内した川淵氏(右)
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 東京五輪開幕まで162日となった11日に判明した、組織委員会トップの交代。新型コロナウイルスに翻弄(ほんろう)され、1年延期という史上初の事態に直面してきた祭典は、川淵体制でどうなっていくのか?スポーツライターの金子達仁氏(55)が独自の目線で分析した。

 今回の騒動、海外の興味は途中から「これほどの失言をした責任者を日本社会はどう処するのか」になっていた気がする。どぎつい表現をお許しいただきたいのだが、切腹か、処刑か――。

 結果はご覧の通り。組織委員会側が「これにて一件落着」と考えているようなら、大変な見込み違いということになりかねない。

 恥を忍んで告白するが、スポーツライターを名乗っていながら、わたしはこの年になるまで、五輪の組織委員会会長という役職がそれほどまでに重要なものだとは知らなかった。まるで。

 リオ五輪の会長は?存じあげませぬ。ロンドンは?北京は?わたしが知っているのは、一切の税金の投入をせずに大会を運営しようとした、ロス五輪のピーター・ユベロス氏のみ。会長を務める方がいなくなったら五輪の成功や開催までおぼつかなくなってしまうだなんて、夢にも思わなかった。

 というか、いまでも思っていないし思いたくもない。

 ここは一党独裁の国なのか?組織の頂点に優秀……というか有名というか大物というか、カリスマをドンと据えておけばなりたってしまう国なのか?

 川淵さんの実績に文句をつけるつもりはない。毛頭ない。この人がいなければJリーグはなかったし、日本サッカーの隆盛もなかった。でも、そのことと東京五輪にどんな関係がある?Jリーグを成功に導いたから、日本のバスケットを立て直したから、だから東京五輪も大丈夫?そう考えた方が多数派だったがゆえの人選なのだろうが、わたしにはその発想自体がわからない。理解できない。

 なぜ東京五輪の開催が危ぶまれているのか。コロナだから、だろう。物凄い勢いで民意が離れつつあるのは、IOCや組織委員会の人たちがコロナに対してあまりにも無頓着に感じられるからではないのか。

 川淵さんは、コロナ対策に明るい方なのか。

 離れてしまった民意を呼び戻すために必要なのは、Jリーグを成功させたカリスマではない。担ぎ上げられてしまった川淵さんには申し訳ないが、たとえば尾身茂さんなどのコロナ対策専門家の意見を大幅に取り入れる組織に変えようというのであれば、まだ納得もできた。大物がいなくなったからまた大物にすべてを委ねようという発想には、心底、絶望した。

 わたしは20年前のドイツの首相が誰だったか知らないし、イタリアやスペインにいたっては現職の名前さえあやふやだ。日本の元首相という肩書が国際舞台でどれだけ有効だったのか、正直いって想像もつかない。

 ただ、元国家元首という肩書がなければ五輪は開催できないというのであれば、なぜ歴代開催国は元首相や大統領を神輿(みこし)に担がなかったのだろう。なんだか、日本社会全体が五輪というものに対する取り組み方を根本的に間違えていたとつきつけられたようで、嗚呼(ああ)、目がくらみそうになる。

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