MTB山本幸平 35歳4度目五輪で日本人初「8位目指す」 けもの道突き進み命懸け修行中
2020+1 DREAMS
【THE PERSON】男女合わせて22種目でメダルを争う自転車競技は、多士済々だ。MTB(マウンテンバイク)男子で東京五輪出場が内定している山本幸平(35=DREAM SEEKER RACING TEAM)は4度目の五輪。自国で集大成を迎える先駆者の生きざまに迫った。
日本には、MTBに人生をささげるレジェンドがいる。既に東京五輪に内定している山本だ。4度目の五輪へ「日本でMTBを見てもらえるのがうれしい。楽しさをいかに伝えられるか。そして、日本人が世界で戦っているのを見せるために8位を目指す」。日本人初の快挙を意味する入賞へ、ペダルをこぎ続けている。
35歳はトップライダーとして君臨し続けている。始まりは、高校3年時にジュニア部門で出場した03年の世界選手権。開催地スイス・ルガノに到着すると「いい意味で、全てがカルチャーショック。刺激的だった」。日本ではあり得ない高難度のコース。その脇には観客がごった返していた。テレビをつければ、MTBの中継が流れていた。「日本にいたらダメだと思った。絶対に海外に飛んでやる、と」。自転車競技が盛んな欧州に身を置くと決めた。
専門学校卒業後には、ブリヂストンと契約。フランスを拠点として「一匹狼」の生活を送った。言葉や食事の違いに悩まされながら、自転車を車に詰め込んで1000キロ以上の距離を1人で運転して転戦したこともあった。武者修行を続けながら成績を上げていくアジア人に注目は集まり、12年には当時の世界王者を擁する「Specialized Racing Team」へ移籍。「そんなアジア人は過去にも今もいない」。スイスに拠点を移し、実力者たちと練習を重ねた。
実力を蓄えて臨んだ16年リオデジャネイロ五輪は、自己最高位の21位。第二の人生を歩むべきか。そんな悩みは閉会式で吹っ飛んだ。ブラジルのサンバのリズムから、次の開催都市・東京の演出へ。安倍晋三前首相と北島康介氏が登場したイベントに、底知れないパワーを感じた。「自分は日本人が知らないところで活動してきた。やってきたことを見てもらいたい。いや、見せないといけない!」。あと4年。東京五輪を集大成と決めた。
自国開催の舞台を見据え、18年には自らチームを立ち上げ、長野県松本市を拠点としている。ベテランとなっても衰えない強さの源が、定期的に行う山ごもりだ。「タフにワイルドに、自然と一緒にならないと」。長野県内の標高2000メートルほどの山荘に約2週間、定期的に泊まり込み、山道や旧道やけもの道で乗り込む。いろんな動物にも遭遇。「熊にも何度か合いました。命は大丈夫でしたが…」。一歩間違えれば崖に落ちるスポットもある。「そういうところも行かないと練習環境がない」。情報をシャットアウトし、全神経を研ぎ澄ましている。
世界を渡り歩いたからこそ、日本MTB界の未来も考えている。山本が去った後の24年パリ、28年ロサンゼルス五輪に向けた日本の出場枠獲りは厳しい戦いが予想されるという。「(東京は)僕が4回目の出場になってしまった。引退後はナショナルチームの監督になりたい」。競技の普及、そして次の世代が奮い立つために。大ベテランが、一世一代の勝負に出る。
《一斉スタート一発勝負》オフロードの悪路を疾走するMTBは、単純明快なルールだ。東京五輪は全長4キロ、高低差150メートルの静岡・伊豆マウンテンバイクコースが舞台。クロスカントリー1種目で、レース時間90分を目安に、周回数は天候やコース状態を基に決まる。全選手が一斉スタートする一発勝負。トップ通過選手の80%に満たないタイムの選手が脱落する。
全8セクションのコースは史上最難関と呼び声が高い。山本も「休みどころがなく、集中を切らすと転倒につながる」と評する。警戒する難所は(2)浄蓮の滝(7)枯山水の2つ。(2)は曲がりくねった岩場を下るため、タイヤ1本分のズレが転倒につながる。(7)は大きな岩がちりばめられた悪路。バランス感覚が必要な(3)箸、5連続ジャンプが見せ場の(4)桜吹雪もレースの行方に影響するという。
MTBは落車のアクシデントも多く、山本は肋骨、胸骨剥離骨折、両肩脱臼などを経験。20メートルの崖から転落したこともあり「死と隣り合わせ」とする一方で「走る側も見る側も面白い」と魅力を語る。
◆山本 幸平(やまもと・こうへい)1985年(昭60)8月20日生まれ、北海道幕別町出身の35歳。小学4年時に初めてレースに出場。アジア選手権10度、全日本選手権は11度優勝。世界選手権は15位が最高成績。五輪は北京大会46位、ロンドン大会27位。家族はトライアスロン選手の妻・敬子さん(36)と長女・凛夏ちゃん(2)。来年3月に第2子誕生予定。1メートル82、68キロ。
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