カヌー・スプリント松下桃太郎、3人の仲間と一心同体で“世界の鬼退治”へ!

[ 2020年7月28日 07:00 ]

2020 THE TOPICS 話題の側面

東京五輪での活躍が期待されるカヌー・スプリント男子4人乗りの(左から)水本、松下、宮田、藤嶋(撮影・倉世古 洋平)
Photo By スポニチ

 東京五輪のカヌー・スプリント男子カヤックフォア(4人乗り)500メートルは、昨夏の世界選手権(ハンガリー)でアジア勢最上位の12位に入り、日本のスプリント勢として2大会ぶりの出場を決めた。強い欧・豪州勢に、最年長・松下桃太郎(32=自衛隊)を中心とした4人のまとまりで勝負する。桃太郎と3人の仲間が舟に乗ってハッピーエンドを目指す。絵本で読んだことがあるような物語の、さあ、はじまり、はじまり――。

 3月3日の桃の節句に生まれ、両親から桃太郎と名付けられた。仲間3人を引っ張り、カヌー・スプリントで“鬼”のような強さを誇る欧・豪州勢と戦う。童話を連想させるストーリーを、松下は「そんなふうになればいいですね」と歓迎する。

 7月中旬、日本代表の4人、“桃太郎軍団”は、石川県小松市の木場潟カヌー競技場で合宿を張っていた。機械のように整然とした動きで、水上とは思えぬスピードで舟が進む。速さの源となる連係を高めるために、総大将・松下は仲間の動き、クセの観察に余念がない。強い日差しの下で一緒に肌を焼いてきたメンバーを、昔話と重ねながら紹介した。

 こぐリズムの安定感が求められる先頭の水本を「イヌ」に例えた。ペア(2人乗り)で「最初にコンビを組んだ」のが理由だ。前から3人目の宮田を「キジ」に指名。上空から獲物を狙う姿と「大事な試合で失敗をしない」という持ち味がマッチした。最後方の藤嶋を「サル」に当てはめるのは「手が長いから」。リーチの長さは加速を生む原動力になる。自身は2番目。先頭のリズムを後ろ2人に正確に伝える役だ。

 当初は、単騎で鬼のすみかに乗り込むはずだった。12年ロンドン五輪はシングル(1人乗り)が11位、藤嶋と組んだペアで10位。16年リオデジャネイロ五輪を逃したとはいえ、シングル200メートルで花を咲かせる考えでいた。

 しかし、64年東京五輪の1度しか日本が出場していない男子フォア(4人乗り)を取り巻く環境が変わった。リオまで1000メートルで行われたが、東京では500メートルに変更された。木村文浩強化委員長は「4人なら個人の力の差を埋められる。距離が長くなるほど実力差が出るが短縮は日本にとってプラス」と解説した。

 例えるなら、陸上男子400メートルリレー。100メートルの9秒台がいなくとも、バトン技術を武器にリオで銀メダルを獲ったように、一糸乱れぬパドルさばきで短い距離なら、戦える可能性が出てきた。

 日本のトップ4人を、この種目に結集。英国代表を指導してロンドン五輪とリオ五輪で金メダルに導いた世界的指導者のアレクサンドル・ニコノロフ氏が、代表コーチに昨年就任したことも成長につながった。昨夏の世界選手権でアジア勢最上位となる全体12位になり、スプリント勢として2大会ぶりの五輪出場権をつかんだ。

 世界ではドイツ、スペインがぶっちぎりで強く、3~8位が混戦だ。そこに割り込むために、松下は奥の手を考えている。こぐ際の「力の入れどころ」は、これまで水中の中間地点から抜き上げにかけてだったが、今後は「キャッチ」と呼ぶ入水時に変更する計画だ。

 「キャッチだと4人のタイミングが合わないと伸びない。1人が早いと、その選手だけ疲れる。コンマ2~3秒ずれたら駄目でめちゃくちゃ難しい。今の位置だとずれても水中で合わせられるけど、それではメダルは獲れない。アレックス(ニコノロフ・コーチ)もキャッチを求めている」

 スタートで差が開き、追い上げが届かないのが今のパターン。出遅れ解消には、キャッチが不可欠。「今はメダルが目標とは言えない。夢。1年延長で、目標と言えるようにしたい」。めでたし、めでたしの結末へ、4人は一心同体になる。

 《過酷なレースで磨かれる肉体美》過酷な競技だ。限界まで体を追い込んでこぐため、レース後は「汚い話ですが、下からも上からも、全部出そうになる。力が入らなくて。頭の中は何も考えられないくらい、真っ白になります」と松下は説明する。筋トレに割く時間は多い。カヌー・スプリント勢の鍛え上げられた肉体は、全競技を見渡してもトップクラスの美しさだ。19年ラグビーW杯の影響もあって、この1年は「ラグビー選手と間違えられることが多い」という。五輪では、息の合ったパドルの動きとともに、キン肉マンぶりにも注目。

 ▽カヌー・スプリントの五輪成績 カヌーの王道といわれるスプリントは全種目で苦戦続き。84年ロサンゼルス大会のカナディアンシングル500メートルの井上清登の6位が男子の最高成績。スラロームでは16年リオ大会で羽根田卓也が銅メダルを獲得した。

 ◆松下 桃太郎(まつした・ももたろう)1988年(昭63)3月3日生まれ、石川県小松市出身の32歳。国体選手だった父・秀一さんが小松ジュニアカヌークラブを創設したこともあって、金野小3年から競技を始める。松東中、小松商卒。現在は自衛隊所属。10年アジア大会カヤックシングル200メートル金、水本と組んだ同カヤックペア200メートルで金、14年アジア大会は藤嶋と組み、カヤックペア200メートル金の実績がある。趣味は週に1度のグルメ。1メートル68、80キロ。

 ◆水本 圭治(みずもと・けいじ)1988年(昭63)4月7日生まれ、岩手県矢巾町出身の32歳。中学は野球部。不来方高でカヌーを始める。大正大、大正大職などを経てチョープロ所属。100~1000メートルまでこなす万能タイプ。松下と組んだ10年アジア大会カヤックペア200メートルで金。1メートル76、82キロ。

 ◆宮田 悠佑(みやた・ゆうすけ)1991年(平3)5月21日生まれ、福島県二本松市出身の29歳。小学生時は水泳。東和中に水泳部がなく、カヌー部に入る。安達高、鹿屋体大を経て、和歌山県教育センター学びの丘所属。パワーと持久力の両方を兼備している。五輪出場権をつかんだ18年世界選手権代表。1メートル76、82キロ。

 ◆藤嶋 大規(ふじしま・ひろき)1988年(昭63)5月23日生まれ、山梨県富士河口湖町出身の32歳。小4時に精進湖でのカヌー教室で競技に出合う。上九一色中、富士河口湖高、立命大卒。現在は自衛隊所属。唯一の既婚者で、家族は妻と男児2人(5歳と1歳)。松下と組み、ロンドン五輪に出場し、14年アジア大会カヤックペア200メートルで金。リズムを合わせるのがうまく、パワーも魅力。1メートル78、83キロ。

続きを表示

この記事のフォト

2020年7月28日のニュース