データで見る八村の第32戦 4度のターンオーバーに見るNBAの奥の深さ
ウィザーズの八村塁(22)はブルズ戦でターンオーバーを4回犯した。つまり味方がシュートを打つ前に自分のミスで4回、相手に攻撃権を与えたということになる。過去31戦では2回が“ワースト(過去7試合で記録)”だっただけに、珍しい試合だったとも言える。
ただし、ここにNBAのベテランたちが考えている「可能性は低くてもやるべきこと」という、この厳しい世界で生きていくための一種の奥の深い“マニュアル”のようなものが見えてくる。
八村の最初のターンオーバーは第1Qの7分49秒。ブルズのライアン・アーチディアッコノ(25)が外したシュートのリバウンドをキープした直後だった。八村は自陣でリバウンドを確保すると、そのまま1人でボールを敵陣まで運び、スキあらばシュートにまで持ち込む「コースト・トゥ・コースト」を今季、何度も見せている。これは彼にとっての一種の“得意技”でもあるが、一方でリスク絡みのプレーでもある。
それはボールを手にしたあとの自分の背後の視野、もしくは気配だ。リバウンドを確保した時点で相手の選手が自分より前にいなければ何の問題はない。しかし反転して速攻に出ようとしたとき、その直前に自分の視野に相手選手の“残像”がある場合には警戒が必要だ。このプレーでは八村にゴール下でボックスアウトされていたブルズのタディアス・ヤング(31)が八村に少しだけ遅れてブルズ陣内に戻ろうとしたが、彼は「ハリーバック」をしながらも、姿勢を低くして八村のボールをのぞき込んでいる。そして“接触可能”と判断した瞬間に左手を伸ばして八村のボールをはたいてしまった。たぶん八村はどこから相手の手が出てきたのかわからなかっただろう。
この同じようなターンオーバーは第2Qの残り2分49秒でも起こった。まずチェコ代表として昨夏のW杯中国大会でも対戦したトマシュ・サトランスキー(28)がドライブインからのレイアップをミス。八村はこのこぼれ球を拾った。そして前を向く。ところがシュートを放ったサトランスキーの姿が視野から消えていた。ドリブルで前に行こうとすると、ゴール下からUターンしたサトランスキーがヤング同様に八村の右サイドからボールに触れ、さらに左からはフランス出身の新人、アダム・モコカ(21)にはさまれてしまい、それをふりほどこうとした八村は反則をコールされてしまった。最初のターンオーバー同様、自分の背後にいる選手に注意していれば防げたミスと反則だった。
第2Qの5分40秒に犯した2つ目のターンオーバーは右サイドからインサイドに切れ込んだ際に相手が2人で阻止したために、左サイドでノーマークになっていたイッシュ・スミス(31)にボールを渡そうとしたのだが、左手によるパスがそれてサイドラインを割ってしまった。これはブルズのディフェンスがうまくいったケースで仕方ないところ。4つ目のターンオーバーは右サイドからインサイドを突こうとした第4Q7分31秒のトラベリングだったが、昨季までアグレッシブにゴールに突き進んでいるケースではあまり吹かれなかったトラベリングが今季から厳密に吹かれるようになっており、これは次回からは修正できるだろう。本人は不満そうだったが、キャッチした瞬間からボールの突き出しまで小刻みに左足→右足→左足と軸足が動いており“厳格な笛”が適用されるならやはりトラベリングだった。
さて八村とマッチアップしたヤングは76ers→ネッツ→ペイサーズと渡り歩いてきたフォワード。昨季まで12季連続で2ケタ得点を記録している実力派のベテランだ。八村はヤングがドリブルで攻めているケースでボールを持っていない手で押してきたにもかかわらず、反則が自分に対して吹かれたことに驚いた様子だった。
確かに国際大会を含め、オフェンダーの「手の不正使用」は厳しくなった。ドリブルをつきながら相手の体をボールを持っていない手で押すのではなく「巻いてしまう」行為にも笛が吹かれるようになった。しかしヤングは八村の体をボールを持っていない手で押すとき、決して手首の位置より肘を高く上げていないのだ。これを逆にすると“肘打ち”の様相を呈するのだが、NBAで957試合の経験があるヤングは、おそらく反則にならないギリギリで“寸止め”できる感覚を持ち合わせているように見えた。よく選手を評価するとき「彼は経験豊富」と言う表現があるが、これはヤングが見せたような奥の深い部分ににじみ出ているのではないだろうか?「可能性が低くてもいつか何かに結び付くもの」。それを執念深くやるか、やらないかでNBAの選手寿命は決まってくるように思う。(高柳 昌弥)
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