ゴンザガ大の八村が成し遂げたデューク大撃破の衝撃 感謝祭前日の鮮烈な勝利

[ 2018年11月22日 17:40 ]

ゴンザガ大で活躍する八村(AP)
Photo By AP

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】今夏の甲子園の決勝を思い浮かべていた。イメージしていたのは金足農のエース吉田輝星投手。「優勝にあと一歩と迫ってはいたけれど、超高校級の選手を何人も擁している強敵には勝てないよなあ〜」。だから善戦はあっても勝つことはない。たぶんそんな結末が待っているのだろう…。しかしバスケの世界に入り込んでいた私にとっての“吉田投手”は勝ってしまった。

 全米大学男子バスケットボールのマウイ招待で決勝まで駒を進め、今季はAP通信のランキングで3位になっていたゴンザガ大。決勝で対戦したのはAP1位のデューク大だった。全米大学選手権(NCAAトーナメント)を過去5回制覇しているこの強敵にゴンザガ大の八村塁(20)がどう立ち向かうのか?正直言って「負けてもいいから何かしら存在感を示してほしい」と願うのが精いっぱいだった。

 このチームには大阪桐蔭で言うところの根尾、藤原、柿木らがいる。先発しているR・J・バレット(18)、ザイオン・ウィリアムソン(18)、キャム・レディッシュ(19)の1年生3人はいずれも来年のドラフトの上位指名が噂されている逸材だ。バレットとウィリアムソンはおそらく全体トップと2番目に指名されると予想されており、まさに“超大学級”のチーム。しかもチームを率いているのは五輪で過去3回、米国代表を優勝に導いている「コーチK」こと、マイク・シャセフスキー監督(71)。1年生の怪物トリオがいて名将がいるチームにどうやれば勝てるのか?そんな答えなどないと思っていた。

 ところがどうだ。試合が始まると3年生の八村が怪物1年生からリズムを奪ってしまった。デューク大はマウイ招待に参加した過去5回はすべて優勝し、ここまで17戦全勝だったが、18戦目は八村を中心とするゴンザガ大に87―89で苦杯。今季の全米大学男子バスケットボール界では最も衝撃的な番狂わせとなった。

 1960年代後半、身長が2メートル18あったUCLAのルー・アルシンダー(のちのカリーム・アブドゥルジャバー=元レイカーズほか)が相手選手のシュートをブロックする写真を見て息を飲んだことがある。日本人にとってはありえない高さでのブロックショット。NBAではなくNCAAという大学レベルで、すでに私にとっては“神の領域”だった。

 それから半世紀。まさかそんな聖域で?日本人選手のいる大学がランキング1位校を撃破する立役者になろうとは夢にも思わなかった。こんな原稿を書いている今の自分を予測することも不可能だった。

 米国のカレッジ・バスケ界ではレギュラーシーズンの序盤でカンファレンスを超えたチーム同士が招待されて各地でトーナメントを行っているが、1984年に誕生したマウイ招待もそのひとつ。八村の活躍もあってその歴史を調べると驚きはさらに増していった。

 なにしろこの大会に参加した選手の中で計147人がNBAのドラフト1巡目に指名されているし、全体トップ指名も3人を数えている。八村のように大会MVPとなった選手では12人が上位10番目までに指名されており、この大会はまさにNBAへの登竜門。NBA各チームのスカウトも多数集結していたと聞いているが、そのスカウトの目に八村の姿はどう焼き付いたのだろうか?おそらく新たに発表されるAP通信とコーチ協会のランキングでゴンザガ大は順位を上げ、もしかしたら1位かもしれないという状況となっているが、そのチームの大黒柱が日本人選手になるとはこれまでの私の記者人生では想定外の出来事だった。

 もちろんここがゴールではないだろう。八村は1年生ですでに全米大学選手権の決勝を経験しているが、今度はチームの主力としてその大舞台にもう一度戻ってほしい。マウイ招待を制した6校は全米制覇も達成。背中を押してくれるデータがあるだけにこれからのさらなる躍進を期待したいところだ。

 マウイ招待決勝を報じたAP通信のジョン・マーシャル記者は「カレッジバスケ界で最も語るべきことが多いチーム(デューク大)に対し、ゴンザガ大はあわてなかった。気おくれすることもなかった」とその戦いぶりを称賛。どんなに相手が強くても、チームが結束して戦う勇気を抱き続ければ、時として誰もが予期せぬ結末になるという教訓をゴンザガ大が与えてくれたように思う。

 2018年11月21日。米国は感謝祭前日だったが、私の予想を気持ちよくひっくり返してくれた八村とゴンザガ大の選手に感謝したい。実にいいものを見せてもらったと感じている。まだ先の話だがNBAのドラフトも楽しみになってきた。すでに1巡目の14番目前後くらいでの指名が予想されているが、各チームのフロント陣にはこう言っておきたい。「いいんですか?デュークをやっつけた張本人をそこまで放っておいて…」。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には8年連続で出場。今年の東京マラソンは4時間39分で完走。

続きを表示

この記事のフォト

2018年11月22日のニュース