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捜索ボランティア 0.1%の可能性信じて 厳しい自然、ヒグマ…「時間との勝負」 知床事故から1年

[ 2023年4月24日 05:00 ]

 北海道・知床沖で観光船「KAZU 1(カズワン)」が沈没した事故から23日で1年となった。これまでに20人の死亡が確認され、6人が行方不明のままだ。知床の厳しい自然で捜索が困難を極める中、複数の遺体を見つけたのはボランティアによる捜索隊。指揮を執ってきた男性漁師は「捜索に行けない家族の代わりに行く」との一心で知床半島の先端へ向かっていた。 (安田 健二)

 カズワンがちょうど1年前に出港した斜里町ウトロ漁港。事故発生時刻付近の午後1時15分ごろ、鎮魂のサイレンが鳴り響いた。気温5度、風速4メートル超。砂浜で海水に手を触れてみると数秒で手がしびれる冷たさ。海には白波が立ち、岸壁では激しい水しぶきが上がっていた。

 町が主催した追悼式には知床半島東側にある羅臼町の漁師桜井憲二さん(59)の姿があった。事故当初はヘリコプターや巡視船による捜索が中心。陸地が空白になっていると感じた。事故発生から10日後、ボランティア有志を募り知床半島先端部を徒歩で捜索を始めた。

 「本当は一番捜したいはずの家族の代わりに知床の自然を知っている俺たちが行く」。一回につき5、6人の仲間と崖や海に面した場所を歩き、時に崖によじ登って岩礁地帯を迂回(うかい)して進んだ。

 5月から10月までに計6回。「天気予報では分からない現地の天気の荒れ方がある。空を見て海を見て風を読む。計画を立てては断念の繰り返し。気の休まる日はなかった」。7月は荒天に阻まれ、一度も捜索に向かうことはできなかった。

 活動が結実したのは8月。2泊3日かけて羅臼側から半島先端部へ向かった時だった。目星をつけていた地点に着くと、1人の頭蓋骨を見つけた。潮の流れなどから漂着の可能性があると見込んでおり「やはりここにいらっしゃったかという思いだった」。

 東京都葛飾区の女性(当時36歳)の遺骨で、夫(同35)と娘(同3)が先に遺体で見つかっていた。のちに遺族と話した際「これで3人そろって葬式ができます」と礼を述べられたという。

 9月の捜索では豊田徳幸船長(同54)の遺体も見つけ、気候的にギリギリ捜索できる10月まで粘った。成果を残した一方「人の骨は獣よりもろく、漂着していても半島に棲息するヒグマが持っていく」と自然の現実を口にする。「捜索は時間との勝負。道警や海上保安庁が当初から陸地の集中捜索をできていれば」と悔いが残る。

 依然として6人の行方がまだ分かっていない。「もし自分の家族だったら、0.1%の可能性でも帰りを信じているはず」。5月の連休を使って、これが最後になる覚悟で再び捜索に向かうつもりだ。

 ▽知床観光船沈没事故 乗客乗員26人のうち20人が死亡し6人が行方不明になった。事故原因を調べる運輸安全委員会は昨年12月に公表した経過報告で、ハッチの不具合や悪天候が予想される中で出航した判断の誤りのほか、国などによる監督や検査の実効性の問題など、複合的な要因が重なったと指摘。第1管区海上保安本部は業務上過失致死容疑で桂田精一社長の立件も視野に捜査している。

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2023年4月24日のニュース