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史上最大の下克上がJリーグを変える

[ 2022年10月21日 07:30 ]

天皇杯を制した甲府イレブンは歓喜の金テープの雨に酔いしれる(撮影・小海途 良幹)
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 【大西純一の真相・深層】10月16日の天皇杯決勝で、J2で18位のヴァンフォーレ甲府がJ1で3位に付けているサンフレッチェ広島をPK戦の末に破って初優勝。この時点の両チームの順位から、史上最大の下克上と言われた。

 下馬評では「広島が有利」と言われながらも、前半26分にFW三平のゴールで先制し、後半39分に追いつかれたものの、延長でGK河田がPKを止めるなど、堅い守備で広島に得点を許さなかった。PK戦でも河田が好セーブを見せて勝利、J1勢に5連勝して初のビッグタイトルを手にした。

 Jリーグ開幕後、J1、天皇杯、ルヴァン杯の3大タイトルで優勝したのは、大半が親会社があり、資金力のあるクラブ。親会社がないクラブが優勝したのは、08年の大分と18年の湘南がルヴァン杯で優勝したぐらいだ。今回の甲府の優勝は資金力のないクラブに勇気を与えた。21年度の営業収益を見ると広島の34億6000万円に対して甲府は12億9000万円、選手の年俸総額に当たる人件費は広島の18億7600万円に対して甲府は4億8300万円。経営規模では約3分の1の甲府が勝ったわけで、文句なしに下克上だ。

 甲府は2000年頃経営危機に陥り、チーム消滅の危機を経験した。海野一幸社長(現最高顧問)が奔走して地元の企業に営業し、小口の看板スポンサーを開拓。スタジアムに掲出される看板の多さはJリーグNo.1だ。地域の支えで何とか立ち直り、06年に初めてJ1昇格。その後は昇降格を繰り返しているが、厳しい経営環境の中で、着実にクラブとして成長している。

 選手獲得も、有名選手は中々獲得できないので、名前は知られていなくても、特徴を持っている選手を獲得して育てている。伊東、佐々木、柏、稲垣ら甲府でプロのキャリアをスタートさせ、ステップアップして日本代表に成長した選手は何人もいる。潤沢な資金がなくても工夫次第でいいチームを作れることを示したのだ。

 湘南も18年のルヴァン杯優勝をきっかけにチーム力が上がった。この年からRIZAPがスポンサーになって資金力がアップしたこともあるが、それまでJ1に昇格してもすぐに降格していたチームが既に5年間J1で戦っている。甲府も今回の日本一で一段成長したはずだ。「こうやればJ1勢に勝てる」ということを学んだだけでなく、コロナ禍で資金的に苦しい中で結果を出せたことで自信がついた。JリーグはJ1からJ3まで合計で58チームになったが、資金的に潤沢なクラブはそれほど多くはない。厳しい経営を強いられているクラブでも、今回の甲府の優勝で「ウチも頑張れば勝てるかも」と感じたたと思う。工夫次第で強くなる――日本のサッカー界を変えるきっかけになるはずだ。
 

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2022年10月21日のニュース