53年前の3位決定戦前夜
【大西純一の真相・深層】男子サッカーのU-24日本代表が準決勝でスペインに敗れて3位決定戦に回った。6日に68年メキシコ五輪以来53年ぶりの銅メダルを懸ける。対戦相手はそのときと同じメキシコで、前回はアウェー、今回はホームでの対戦となる。
東京五輪で日本はここまで中2日で5試合戦ってきた。酷暑の中の過密日程だ。53年前のメキシコ五輪は中1日で試合が試合が組まれていて、遠くの会場への移動はたいへんだった。しかもメキシコシティーは標高3000メートルを越える高地、選手交代も1試合たしかひとり、ターンオーバーの発想もなく、ほとんどの選手が出ずっぱりだった。「宿舎の部屋に戻ると、そのまま倒れ込むように寝た」と、当時の選手は言っていた。
おまけに選手登録は19人のところ、日本は体協から「予算がないので」と言われて、1人少ない18人しか登録しなかった。余談だが、現地入りして枠がひとつ空いていることを知ったメキシコサッカー協会関係者の勧めで、岡野俊一郎コーチを18人目の選手として登録、お陰で岡野さんも表彰台に上がり、銅メダルをかけられた。
日本は準決勝で優勝したハンガリーにPKを2本も決められて0-5で敗れた。元々大会前は「参加することに意義がある。決勝トーナメントに行ければ」と言う程度の意識で、メダルなど頭の片隅にもなかったという。しかし準々決勝で欧州屈指の強豪・フランスに3-1で勝って、メダルが見えたところだっただけに、ハンガリーに完敗したショックは想像以上に大きかった。そのとき日本をよみがえられたのは、クラマーさんだった。
東京五輪の4年前に日本代表の特別コーチとして招かれ、日本代表を鍛え上げて東京五輪でベスト8の成績を残した。五輪終了後に退任して西ドイツに戻り、メキシコ五輪にはFIFA技術委員として来ていたが、日本のことはいつも気にしていたという。選手宿舎にやってきて、選手にこう話したという。
「日本はベスト4になった。日本はいままで世界的な大会でベスト4になったことはない。君たちは素晴らしい。ただ、ここで銅メダルを持って帰れば、日本のサッカーの歴史が変わる。ベスト4でもう歴史を変えたが、さらにワンチャンスある。私の国、西ドイツも五輪でメダルは取ったことがない。ハンガリー戦のことは忘れて、銅メダルを持って帰ろう。歴史を変えようじゃないか」
クラマーさんの言葉に選手たちは頷き、やる気を取り戻した日本は2-0で勝利、スタンドのファンもメキシコのふがいない戦いに最後は日本を応援したというのは語りぐさになっている。
準決勝でスペインに負けて金メダルの夢が消え、口で言うほど簡単には気持ちの切り替えはできないだろう。だがベストを尽くした結果なら、銅メダルでも立派に輝く。クラマーさんが言ったようなことはいわれなくても選手は分かっていると思う。メキシコ戦で、スペイン戦以上の試合を見せて“有終の美”を飾り、日本のサッカーの歴史を塗りかえてほしい。
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