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小泉新社長が鹿島にもたらす革命

[ 2019年8月30日 11:45 ]

新社長に就任し、記者会見で抱負を語る小泉社長
Photo By スポニチ

 鹿島は30日、アプリ大手のメルカリが鹿島の経営権を取得したと発表した。メルカリ社は日本製鉄などから株式の約61・6%を約16億円で買い取り。この日、臨時株主総会と取締役会が行われ、クラブの新社長に同社の小泉文明氏(38)が就任した。

 なぜ、今回の経営参画に至ったのか、そして何が変わっていくのか。小泉氏の生い立ちから経営権取得への経緯、変革のポイントを記す。

 ★小泉新社長のホームタウンとの関わり
 ホームタウンの旧麻生町(現行方市)は父の出身地。現在も父の兄夫婦が住み、小泉氏にとっても「故郷」のような場所だった。霞ヶ浦(湖)に行くほかは何も遊び場のなかった地域に、劇的な変化が起きたのは中学1年生の時。Jリーグの開幕だった。「サッカーの魅力にどっぷりはまった」。カシマスタジアムのこけら落としの試合を観に出かけた野球少年は、一変してサッカー少年に、そしてアントラーズファンになった。「何もなかった地域が、サッカーによって大きく発展する姿」は、小泉氏の脳裏に深く刻まれつづけた。

★親会社変更のきっかけ
 寝耳に水、だった。12年に親会社の住友金属工業が、鹿島の体感では「突如」、新日本製鉄と経営統合。クラブの前身だった「住金」の名前も消えた。親会社との距離ができはじめ「以前より熱を感じなくなっていった」(鈴木満氏)という。4年ほど前から新しい経営母体を探し始め、“選定”は2年前に最終段階へと入った。

 当時は候補が複数社あった。メルカリ社を選んだ一番の決め手は、鹿島とホームタウンの歴史を深く知り、本拠地を移転しないという条件を大事し、強化のトップである満氏、事業のトップである鈴木秀樹氏(以下秀樹氏)という鹿島が誇る「ダブル鈴木」の築いた功績を尊重し、そして時に満氏よりも熱く試合を観戦するような小泉氏から、何よりも「1番アントラーズに対する愛情を感じた」(満氏)からだった。

★組織変革のポイント
 メルカリ社は、極めてフラットな組織作りをしている。例えば個人宛のメールは禁止。必ずグループで情報を共有する。限られた責任者だけでなく担当者それぞれに意思決定が任されており、そのためには全員が情報を共有していることが欠かせないからだ。日本製鉄の400の子会社の一つに過ぎず、意思決定までに判子が7つも必要だったこれまでの鹿島とは極めて対照的だ。

 事業のアイディアがあっても、「親会社の“かせ”があり、目の前の餌が食えていなかった」(秀樹氏)これまで。DAZN参入によりJリーグが「共存、共栄」から「競争」の時代になった今、鹿島も同社の組織作りを導入することでスピード感を持って変革していくことができる。また、選手やスタッフの給料もメルカリ式に。「年功序列ではなく、パフォーマンスに対してきっちり払っていく」(小泉氏)ように変わる。

★目指すは100億円クラブ
 鹿島の19年1月期の売上高は前の期比40%増の73億円。今後は100億円クラブを目指す。「Jリーグを代表するチームとしてアジアや世界に出て行くことを考えると、もっと変化を起こさないといけない」と小泉氏は言う。

 サッカーを観に来なくても楽しめる、テクノロジーを最大限に活用した多機能型スタジアムへの変革。海や広い土地を生かしてホームタウンを企業の実証実験の場にして図る地域活性化。企業名の露出だけでなく事業を一緒に創り上げる関係をスポンサーと築く新しいビジネスモデル。アイディアは尽きない。「事業を回して収益を獲得しながら強化に充て、強いアントラーズを実現していきたい」と小泉氏。アジアをリードする経営基盤を目指していく。

★Jリーグもリードする存在に
 現在、Jリーグ全体のスタジアム来場者の平均年齢は45歳だという。年々上がる平均年齢は、若い年代の人がスタジアムに来ない、という課題を浮かび上がらせている。テクノロジーの活用も業界全体で遅れている分、変革できる余地は未知数だ。06年からミクシィに参画して取締役を務め、13年からメルカリ社に入社してサービスを日本中に広め、インターネット業界を最前線でけん引してきた小泉氏は、鹿島を取り巻くスポーツ界に強い期待感を抱いている。

 「僕自身、アントラーズのフットボールや地域の可能性が楽しみで、(携わることが)心の底から面白い。ここ5年10年で凄く変わるなっていうのが見えるんですよね。スマホの登場くらいのイメージなんです。僕はスマホの登場が見える前後でミクシィを辞めてメルカリをつくってきましたけど、同じように“なんかここ来るな”、“ここは凄く大きく社会が変わるタイミングだな”というのが嗅覚としてある」

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2019年8月30日のニュース