【内田雅也の追球】ピンチ断った阪神の4併殺 軟投チェンに贈った白星 「4秒00」が光るマルテの好守

[ 2021年4月30日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6ー2中日 ( 2021年4月29日    バンテリンD )

<中・神(6)>3回1死一塁、遊撃手・中野からの送球をキャッチし、京田の一ゴロ併殺打を完成させる一塁手・マルテ(撮影・坂田 高浩)
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 阪神の勝因は4併殺を奪った守備にある。ピンチの芽をつみ、またはピンチを最少失点で切り抜けたのだった。

 ゴロを打たせた投手も立派である。以前も書いたように、吉田義男が言う「野球は連係のスポーツ」の美点が見えた試合だった。

 最大のピンチは7回裏無死満塁だった。梅野隆太郎は小林慶祐に4球連続でフォークを要求し、木下拓哉を狙い通り遊ゴロ併殺打に仕留めた。次打者・根尾昂を三振に取り、最少失点で収めた。

 移籍後初登板だったチェン(陳偉殷)が6回1失点で勝利投手となれたのも要所での併殺が効いていたからだ。

 2回裏無死一塁、阿部寿樹にチェンジアップを引っかけさせ、遊ゴロ併殺打に切った。直後に木下拓に二塁打を浴びており、チェン自らも認めていたように「不安定な序盤」を乗り切ることができた。

 3回裏1死一塁では京田陽太の一ゴロで3―6―3の併殺を完成させた。強烈な当たりだったが、ジェフリー・マルテがバックハンドで好捕、素早く反転して送球し、さらに素早くベースに戻って仕留めた。

 インパクトの瞬間から一塁捕球まで、手もとの計測で4秒00という速さだった。打者走者は俊足の京田だったが、間に合った。間一髪で併殺を完成させたのだ。クリーンアップトリオにつながる前に打線を分断した。

 かつての剛球はなく、変化球で打たせて取るチェンにはありがたい内野陣だったことだろう。

 マルテはこの日も8回裏から守備固めで交代となったが、守備は明らかに向上している。沖縄・宜野座キャンプ中、連日早出特守を受けた意欲が実っているのだろう。

 27日にはバント処理を三塁送球して封殺している。送球でのアウトにした数を示す補殺はセ・リーグ一塁手で最多の20を数えている。

 この日は「昭和の日」だったが、昭和の当時に比べ、一塁手の守備の重要性は増している。阪神はこれでホーム・ビジターで対戦5カードが一巡したが、マルテの好守は強みとなっている。ちなみに失策は1個だけだ。

 阪神は昨年まで3年連続リーグ最多失策だった。内野守備走塁コーチ・久慈照嘉は失策数に加え、数字に表れない弱点を自覚していた。「併殺を取り損ね、残った走者を生還させてしまうこともよくあった」。その点、この日は奪える併殺はすべて奪っていた。9回裏無死一塁でも遊ゴロ併殺があり、計4個である。

 確かに、ミスもあった。7回裏先頭の三遊間ゴロをバックハンドで弾いた遊撃手・中野拓夢は生きた心地がしなかったろう。先に書いた、無死満塁を招いている。1つのミスが致命傷にもなりうる。期待の新人には救われた勝利で、成長への糧となったことだろう。

 敗れれば、今季初の同一カード3連敗だった。負けられない一戦に奮起した。打のヒーローはむろん先制打に3ランの大山悠輔だが、守備陣の功労は記しておきたい。

 吉田義男は監督時代、連敗中「攻撃的な守備ができているか」をチェックポイントにしていた。連敗した前夜<守れているうちは大丈夫>と書いた。打席に1人だけしか立たない攻撃よりも、出ている9人全員がかかわる守備の方がチーム状態を見るのに適しているわけだ。そんな野球の見方を、この日の勝利が証明してくれた。=敬称略=(編集委員)

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2021年4月30日のニュース