鳥取城北・阪上 逆転サヨナラ負けも…病と闘い、たどり着いた夢のマウンド「こんな僕でもやれる、と」

[ 2020年8月11日 05:30 ]

2020年甲子園高校野球交流試合   鳥取城北5―6明徳義塾 ( 2020年8月10日    甲子園 )

<明徳義塾・鳥取城北>9回、サヨナラ負けし、涙を流す鳥取城北・阪上(左)(撮影・平嶋 理子)
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 2020年甲子園高校野球交流試合は10日、兵庫県西宮市の甲子園球場で開幕し、2試合が行われた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で春の第92回選抜大会と夏の第102回全国選手権大会が中止となった異例の年。センバツ出場予定の32校が招待されての1試合限りの戦い。球児にとって、甲子園はやはり特別だった。変わらぬひたむきな球児の姿勢がそこにあった。

 浜風も、銀傘も、何も変わらずに甲子園は待っていた。ひたむきにプレーする全ての球児たちを。一挙手一投足に対する大歓声はない。アルプス席からの大応援もない。静けさの中に、球児の仲間を鼓舞する声が抜ける。それでも、雲が湧き、光があふれていた。

 第2試合。快音を残した白球が右翼後方の青芝に弾む。明徳義塾・合田涼真(3年)がヘッドスライディングでサヨナラのホームへ。マウンドでは鳥取城北の左腕・阪上陸(3年)が崩れ落ちた。歓喜と涙。どんなに風景が変わっても、球児にとって甲子園はやっぱり甲子園だった。

 「悲運」なんて言わない。阪上の涙の意味をみんな知っている。苦難を克服し、やっとたどり着いた夢のマウンドだ。7回から2番手で2回を投げ、9回のピンチで左打者・新沢颯真(3年)を迎えて再びマウンドへ。そして痛恨の一打を浴びた。逆転サヨナラ負け。「しんどい思いして背番号1をもらい、最後の大舞台でやりきれず悔しい」。涙は止まらない。悔しさが全身を貫く。それこそが甲子園のマウンドで投げた証だ。

 尿細管間質性腎炎――。中学2年の時に、冬の練習で手の指を骨折。処方された鎮痛剤が体に合わずに、腎機能が低下した。2カ月の入院。体重は20キロ減り、車いすで、自分でトイレにいけなかった。でも、野球は諦められなかった。大阪の強豪校には行けず、治療を続けながら部活を認めてくれた鳥取城北へ進学。1カ月に一度は投薬のために大阪へ行き来した。「ここで必ず甲子園に出る」。センバツが中止になっても夏の甲子園も中止でも、ここまできた。「こんな僕でもやれる、と(闘病で苦しむ人たちに)届けばいいな」。1メートル69の小さな体で精いっぱい応えた。

 無情のフィナーレだって、阪上の魂の投球は確かに甲子園に刻まれた。(秋村 誠人)

 ◆阪上 陸(さかがみ・りく)2002年(平14)10月2日生まれ、兵庫県伊丹市出身の17歳。小2から野球を始め、小6では阪神タイガースジュニア、松崎中時代は甲子園シニア。主に投手。鳥取城北では1年秋からベンチ入り。昨秋から背番号1を背負う。好きな言葉は「堅忍不抜」。1メートル69、67キロ。左投げ左打ち。

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