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「2024年物流問題」ってナニ? 現場の生の声を清水和夫が聞く。働き方改革を自動運転やトラックGメンが救うとは?

[ 2024年4月11日 19:00 ]

清水和夫の「頑固一徹学校」は、自動車社会がかかえる数々の問題もわかりやすく解説

清水和夫と吉田知史
(株)tuc 吉田知史社長に2024年物流問題とはなにかを聞いてみた

国際モータージャーナリスト・清水和夫さんが毎週金曜日の20時(午後8時)~、自身のYouTubeチャンネル『StartYourEnginesX』で生配信している「頑固一徹学校」。これは2020年、世の中にコロナ自粛が始まってすぐ、「家にいるし時間もある。だったらこの際じっくりと自動車社会のことを考えてみよう」ということから始まった。清水さんが教授に扮し(開始当時は白衣を着ていたり)、自動車、自動車社会に関しての講義をしてくれるもので、コロナ自粛が終わった今現在もライフワークとして続けている。
今回は、その「頑固一徹学校」で2024年4月5日に配信された(この回は収録)「2024年物流問題」について、トラックを30台所有する運送会社の社長さんであり、全日本ラリー選手権仲間でもある株式会社tuc 吉田知史社長に、トラック物流業界の現場から生の声を聞いた回を紹介する。

トラック業界は今、改革に迫られている

吉田知史
(株)tuc 吉田知史社長。清水さんとはラリー仲間でもある

清水:今日はちょっと真面目な話をしようかなと思って、私の友人でもあり、ラリーでのライバルでもある吉田知史さんに来ていただきました。
吉田:こんばんは!
清水:吉田さんは私と全日本ラリー選手権で一緒に戦って、一昨年まで私が乗っていたヤリスCVTを買っていただいて。でも最近はお忙しくてあんまり出てきていない。
吉田:申し訳ございません! ちょっと仕事が多忙なもので…。
清水:なんで仕事が多忙かというと、吉田さんは京都のトラック運送会社の社長さん。今年から「2024年物流問題」とよくテレビでもやっていますけど、コレって私たちは知っていそうで知らない。何が問題なのか? 今年からスタートした新しい政策ですけど、まずはその辺からお話を伺いたいと思います。

清水和夫
2024年物流問題が気になってしょうがない清水和夫さん

清水:タックトランスポート?
吉田:tucで「トランスポートユニークチャレンジ」。
清水:トラックは今、何台くらい持っている?
吉田:今は30台ほどですね。
清水:そんなに! 一番大きいのは?
吉田:大型トラック、俗にいう高速道路を夜ぎょ~さん走っているアレですね。
清水:アレって荷物満載するとペイロード(有償搭載量)で30トンくらい?
吉田:25トンですね。

(株)tuc
(株)tucでは30台ものトラックを所有する(tuc Webサイトより)

清水:今私、政府の委員でレベル4の自動運転トラックをいろいろやっているんですけど、トラックを自動運転レベル4にするのもそんなに簡単じゃない。物流問題の将来の課題解決としていろいろやっています。今年始まった「2024年物流問題」、かい摘んで話すとどういうことなのでしょうか?
吉田:2024年 3月31日までは労働時間というのは、サブロク協定(※労働基準法第36条に基づく労使協定)とかいろいろあるんですけど、上限規制っていうのが言われてはいたけど、そこまで一応仕方がないよねっていう感じだった。
清水:それは労働基準法? 厚生労働省からきてる?
吉田:そうですね。「改善基準告示」というのがあり、今までは闇雲にドライバーが走っていて残業時間が月に100時間とか120時間とか、多いと180時間とか、そういうところがあったんですけども、「月80時間、年間で960時間以内にしなさいね!」っていうこと。
清水:残業時間ね。ボクなんかもっとやってるけど!
吉田:清水さんはちょっと働きすぎだと思います!!

深夜の高速料金3割引きで、24時チョイ前の料金所手前はカオス状態

高速道路
24時前になると、割引料金が適用されるよう料金所手前はかなりの台数が3ワイドで走る

清水:高速道路の料金は12時(24時)を超えると3割引きでしょ。それはトラックの運転手さんが稼げないから一般道を走っていて、それは危ないから、じゃ高速道路を走ってもらって夜間は割り引く…という制度。東京の瀬田料金所(東名高速)手前の上り方向で23時57分ぐらいからスリーワイドになっていますね。で、24時過ぎるとみんなわーっと料金所に入っていく。一気に高速料金が3割減りますからね。
吉田:はい、そうですね。関西からだと大型トラックで、乗るとこにもよるんですけど大体、普通だったら1万3000円、1万5000円ちょっと。それが仮に1万5000円で4500円安くなったら全然違う。
清水:それは会社持ちじゃなくって運転さん負担?
吉田:本来は会社がすべて負担して、それをお客さんにいただくというのが本当なんですけども。その運賃のなかに高速道路代は含まれていますよっていうことになるので、その決まっているなかでいかに経費を減らすか?と思ったら、高速代を割り引くっていう感じですね。

SA、PAにいるトラックは“休まなきゃいけない”ルールがある

清水:最近、第2東名高速をよく使うんだけど、どのサービスエリアもトラックでいっぱい。昔はそうじゃなかった。やっぱり物流の絶対量って増えているんですか?
吉田:物流に関しては、まぁ今はちょっとへこんでいますけど、大体コロナ前からずっと一緒なんです。高速道路のパーキングエリアとかサービスエリアになぜトラックが多いかというと、トラックっていうのは「4時間走ったら30分休憩しなさい」というルールがあるんです。昔からあるんですけど守っていなかったというだけで。

SA、PA
トラックドライバーには4時間走ったら30分休息しないといけない、というルールがある

清水:それが労働基準法で、運転手さんの職場改善ですね。
吉田:そうです。それが運輸支局などが監査に来た時にデジタコ(デジタルタコグラフ)とかを見られたら、「コレ、休んでないですね」とアウトになっちゃう。
清水:デジタルデータが残っちゃった。アウトになるとどんなペナルティが?
吉田:点数制になっていて、点呼していないですよねとか、健康診断受けさせていないですよね…というのが点数で溜まっていくと、「100日車」と言って1台の車だったら100日間ナンバープレート持って帰られたり。それが180日車だったら、仮に10台を同時に止められたら18日間ですから、1台だと180日間止めたりとかしなあかんということになって。
清水:ペナルティですね。
吉田:それがひどいと、営業停止10日間とかになってしまう。

業界イジメではなく、ドライバーの命を守るための働き方改革

清水:政府は何をやりたいんですかね? ドライバーを守りたい?
吉田:脳疾患とか心疾患で亡くなる人が、トラックのドライバーには全産業のなかでもずば抜けて高いんです。
清水:そういう背景があるんだ。
吉田:例えば建設やったら墜落・転落事故とかがあるじゃないですか。運送業のドライバーっていうのは心疾患、脳疾患の健康被害がすごく多い。
清水:過酷なんですね。その改善をするために、働き方改革をしているんですね。

(株)tuc
トラックドライバーに多い病気が脳梗塞と心疾患。働き方改革はドライバーの命を守る使命がある(tuc Webサイトより)

吉田:労働時間を短くすれば、単純に家でよく寝て休息を取れば健康の被害も減るだろうというのは、それは確かに正しいと思うんです。でも、実際に今年の4月1日から「9時間休息しなさい」ということに決まったんです。
だけど実際、家で9時間休息して、じゃあ翌日の朝から積んで東京に行きましたとかになると、今度はまた東京で泊らないといけなくなる。1ヵ月間のトータルのラウンド回数が減ってしまうんですよね。そうなってくると、月々の売上げが、今まで例えば関西-関東8往復行けていたのが6往復とかになると、1回あたりの運賃が変わらなければやっぱり月々の売上げが減る。となると、ドライバーに同じ給料を払えないから、じゃあドライバーはどうするの?って言ったら、転職したり離職したりしていく。

(株)tuc
今まで通りの売り上げはどう確保するのか?(tuc Webサイトより)

清水:でもそれは、そういう制度を取り入れたらそうなることは予測できたんじゃないですか?
吉田:それはそうやと思うんですけど、やっぱり机上の理論というか。国は元々10回走っていたのが8回になって、8回になったのが6回になったとしても、1回あたりの単価を交渉して上げていけば、あとはその通りにいけるんじゃないの?という考えが多分あると思う。
だから、今まで関西-関東間を往復して、例えば15万円頂いていたトラックがあって、それが月10回往復したら150万円じゃないですか。それを8回に減らしなさいって言ったら120万円になる。その120万円でトラックのリース代とか償却代とかは変わらないじゃないですか。燃料代は下がるけど、ドライバーって走れば走る数で給料が決まってくるというところが圧倒的に多いので。そこのところはちょっとねじれが生じている感じですね。

清水:その話を聞くと、なんかこう出口がない感じがあるけどね。
ドライバーさんの健康のことだけを考えると、事業全体が儲からなくなると。すると給料払えなくなる。運転さんは休めるけど賃金は下がる。あんまりいいソリューションじゃないと思うんだけどね。全方位でこうウインウインになるようなやり方っていうのは、運賃上げればいいのかもしれないけど。全体をどうやって最適化してくんでしょうか。スタートしたばっかりだと思うんですけど。

フェリー、鉄道…陸送トラックの代わりはあるが…

吉田:ひとつ言われているのがフェリー。九州とか東北とかは農産物とか水産系とかのいいものがとれるわけです。それが東京の銀座とかに集まり、築地、豊洲などに集まってくるんですけど。そこを例えば九州を出発して今まで翌々日着とか、昔はそれこそ翌日着とかで走っていた。鹿児島で積んで日が変わるくらいまでに築地、豊洲に着けるということをやっていた。それがだんだん難しくなってきたら、まずフェリーに乗せて、その間はフェリーに乗った上船時間は高速時間からは外せる。あとはモーダルシフトという鉄道に乗せたりとかはするんですけど。フェリーも数が決まっている。今、フェリー予約はちょっと取りにくくなっているらしいんです。
清水:もういっぱいで。
吉田:鉄道って日本全国、JRの持ち物で線路が張り巡らされているんですけど、貨物会社はJR貨物のただひとつのみ。JR貨物はJR旅客の線路を借りているので、旅客優先のダイヤなので、そんなに数を増やすことができない、限度があるんです。

運賃の値上げ、自動運転トラック…解決策はあるのか?

清水:この難問というか課題を、どういう風に解決していけばいいんでしょうか。吉田さんは実際の事業者さんとして。
吉田:綺麗ゴトで言えば、1便あたりの運賃を上げて、走る回数が少なくても収受する運賃が前と一緒もしくは上がって、ドライバーの賃金も上げて全員が潤う、という風なところが一番。やはり運賃の話と労働時間の話っていうのはまったく別の話になってくる。進み方も変わってくるので、やっぱりそういう風に持っていくためには、拘束時間を短くして…となってくると、この先、将来的に入ってくる自動運転などそういう風なものに期待はやっぱりしていく。

清水:なるほど。今私、ロードtoレベル4(RoAD to the L4)という政府プロジェクトの推進委員をやっていますけど、そこのテーマ3がレベル4の大型トラック物流の課題解決。非公式には大手の佐川さんとかクロネコさんは2035年くらいに1社あたり500~700台くらいの自動運転トラックを走らせたいと。目標はドライバーレス。でもそれは大手2社、日通さんも含めて力があるからできる。でも委員会で聞いたら、日本の場合、運送業者のそのほとんど、70%は中小企業じゃないですか。そんなトラック買えないよね!
吉田:そうですね。値段がなんぼするのかちょっと想像つかないです。

清水:今度そこに電動化とか、カーボンニュートラル、水素エンジン、水素燃料電池トラックとか、そこにLiDAR(ライダー)付けた自動運転! 2倍じゃきかないくらい高くなる。
吉田:5~6年くらい前までは大型トラックでいっぱい走っている完成車、吊しのクルマで大体1200万~1300万円で乗れるっていう感じだったんですけど、今もう完成車でも1500万円超えてきている。
清水:意外と安いんだな。

三菱ふそう
電気小型トラック「eCanter」がe-Mobility Power社の公共充電ネットワークを利用可能に(三菱ふそうプレスリリースより)

吉田:それはあくまでも事業用のボクらのグリーンナンバーの値段なので、個人で買ったら実際はもっと高いと思うんです。3年ほど前に三菱ふそうのキャンターBEVを乗らせていただいた。あれが大体1500万円すると。
清水:あのキャンターはダイムラーが作っている。
吉田:同じ仕様のディーゼルエンジンのキャンターだったら600~700万円くらい。BEVは倍以上するんです。
清水:あぁなるほどね。

電気小型トラック「eCanter」
電気小型トラック「eCanter」。大型になるとなんぼするんやろか?(三菱ふそうプレスリリースより)

吉田:国から補助金が700万円くらい出ますというので、じゃトントンよねって言うんですけど、その割合からすると大型トラックとかは多分5000万円くらいするんじゃないかなと思うんです。
清水:国が2000万円くらい補助金出して。でも税金だからね。
吉田:同じ運賃だったら中小企業ではまったくペイできない。

自動運転=他業種参入もあるのか

清水:吉田さんは30台もトラックを抱えている会社の経営者でしょ。なんか相当ヤバいとか心配?
吉田:やっぱりこれから先どうなっていくかな?というのは、運賃が上がっていってちゃんとビジネスモデルとして成り立っていくのか?というのと、その反面、自動運転が増えすぎちゃうと、今度その大きい会社がシステムとして入ってくると思うんです。運送会社じゃなくても、もっと大きいシステム会社が入って走っちゃうと、ドライバーっていうのがもう輝けないというか、不要になっちゃうので、そうなった時って果たしてどうなるのかな?っていう風なことは不安には思いますね。

吉田知史
自動運転も働き方改革にはなるが…

清水:ボクもSNSで去年あたりからこの問題をつぶやくと、吉田さんから「もっと本質的な問題を考えなければいけない」というコメントをいただいて。今の話が事業者の立場でいうところの問題。
最近、Amazonが送料無料の金額を2000円から3000円に上げたりとかは、物流の負荷がかからないように実質的な運賃の値上げを各事業者が今やっている。でも一番物流を使っているのはトヨタじゃないかな?と思うけど。

トヨタも物流改革が必要になる?

吉田:トヨタはやっぱり凄いですね。24時間かんばん方式で、必要な時に必要な量だけを…というのだから、ずっと走っているわけじゃないですか。
清水:トヨタも影響受ける?
吉田:それは受けるでしょうね。日本の自動車産業は凄いので、一番物を運んでいる。在庫を抱えない、最適ジャストインタイムで送られてくるというのが、それが完全にドライバーレスの自動運転になったら、トヨタにしてはすごくいいことだと思うんですけど。それって10年、20年かかるかな。
清水:20年くらいはかかるかな。トヨタもこの先、トヨタ的生産方式、ジャストインタイムも少し課題が出てきて、みんな見直さないといけないことになっていくんですね。
吉田:そうですね。極端な話で、今までの月間生産台数が同じ量できるかどうかと言ったら、ちょっとそこも難しいです。

清水和夫
ソレはホントに今すぐ欲しいものなのか?モンスターユーザーになってはいけないよな

清水:効率は落ちますね。我々消費者も「焼きたてのメロンパンをすぐ食いたい!」とか、そういうわがまま言っちゃいけない。Amazonでポチってやっても、1週間くらい経ってもしょうがないっていうくらいに思わないと。ユーザーがモンスター的に「早く持ってこい!」みたいなことを言うと、やっぱりどこかに負荷がかっていく。

明日欲しいものは本当に明日必要か?

吉田:究極の極論で、日本はどこでも蛇口をひねったら水が出てくるじゃないですか。電気もあるし。じゃ究極、注文してすぐ来なくちゃいけないって言ったら薬か血清か。それ以外ってなくて死ぬものというのはまぁないじゃないですか。もっと皆さんが大らかな気持ちで待っていただいてリードタイム(※工程や作業の始めから終わりまでにかかる所要時間、期間)が伸ばせると、ちょっとでもマシになるのかな。

清水:ということでございますので、この私のYouTubeを見ている皆さんも、ポチって買った時に「すぐ持ってこいよ!」じゃなくて、その見えない物流のところに今まで凄い負荷がかっていたということです。それを知らずして私たちの生活っていうのは成り立たないので、こういう現状を知ってもらうというのは大事。

清水和夫と吉田知史
2024年物流問題は私たち一般の生活にも関わってくる問題だ

清水:ふたりともラリードライバーなんだけど、今日はかなり真面目な話!
吉田:いや~こういう話をすることなど、なかなかないです。
清水:多分、業界の方とか行政の方も見てくれているんじゃないかなと思うので。

中小企業の声はどうやって届けるのか? トラックGメンも登場!

清水:先ほど労働基準法だから厚生労働省と国土交通省、補助金があるから経済産業省も絡むのかな。やっぱりそういう政府ベースの委員会も2024問題をやっているんだよね。そういったところに中小企業の代表者の声っていうのは届くんでしょうか。
吉田:なかなか難しいですね。業界新聞とか見て「そういう話がされました」というのが出てくるのも、例えば日通のNXロジスティクスさんとかロジスティードさん、日立さん、ヤマトさんとかなので。ただ、そういうところの下にい~っぱい中小企業を使っているので、現実を話しないと。実はその間に3つも4つも搾取する業者が噛んでた…なんていうこととか、なかなか上の方はわからないと思うので。

(株)tuc
(株)tucのような、中小企業の声を政府に届けたい!(tuc Webサイトより)

清水:そういう声というのは、上に上げるルートなどがあるんですか?
吉田:今、「トラックGメン」というのができまして。要は運賃交渉に応じてくれないとか、不当な買い叩きをしているという業者へのGメンができたんです。そこに対して問題を言うと、公正取引委員会が調べて勧告するという。ついこの間もヤマトさんと王子マテリアさんとかがそれに名前が出ちゃった。そこは結構本気にやっておられるみたいです。

清水:なるほど。現場の声がちゃんと政府というか、その委員会とか有識者に届くような仕組みを作らなければいけない。そのくらいのことだったらわずかながら私も力になれるかなと思います。

このYouTubeチャンネルを使って皆さん、物流問題というのは目の前には見えてはいないですけど、見えないところでこの問題がひしひしと慢性的に、日本の産業競争力というのかな、生活、働き方を脅かしている。そんな風に感じたので、またなにか吉田さん、機会がありましたらよろしくお願いいたします。

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