修斗世界フェザー級王者・佐須啓祐「別格」な場所へ1年ぶり「ROAD TO UFC」3戦必勝へ秘策あり
修斗世界フェザー級王者の佐須啓祐(日本=28)が27日、中国・上海で開催される「ROAD TO UFCシーズン2」のフェザー級トーナメントに参戦する。世界最大の総合格闘技団体「UFC」との契約を目指す過酷な戦い。1回戦のキム・サンウォン(韓国)との激突に向けて秘策も用意。「あんまり気張ってないです。どんなに、つまんなくても3回勝ちを拾うだけ」。“3戦必勝”でケージに臨むサムライが本音を語った。
――1年ぶりとなる「ROAD TO UFC」への意気込みは?
「絶対に無理だと思っていたところから、やらせてもらうことになった。これはスベれないです」
――昨年は右ヒジの故障というアクシデントもあって1回戦負け。もうチャンスはないと思っていた?
「もともとヒジが緩くて外れやすい。たまたま、ああいう形になった。3月に修斗の防衛戦(※1)をやって出場が決まった。大きいケガもなく調整できている」
――キム・サンウォン選手の対策は?
「ディフェンス面の練習をしてます。相手はパンチを振ってくるタイプなので、もらわないようにしないと。左のパンチが強そう。試合映像はもらいましたけど、あまり見ない。セコンドに見てもらって客観的に“ここが穴”とか“ここが強い”とか判断してもらう。映像を見過ぎると相手の対策によりがちになるので」
――昨年、米国で武者修行。良い経験になった?
「良かったと思います。米国で学んだ2カ月間の内容を自分のスタイルに落とし込むため練習してきた」
――米シンジケートジムで学んだことは?
「レスリング、寝技、グラップリングを底上げできましたけど、劇的に変わったのは打撃。攻撃の幅が広がった。スタンスを入れ替えながら距離を外したり、攻撃をする際のささいなポイントだったり。重心をどっちに乗せるとか。日本人にはない発想だった」
――米国では同じシンジケートジムで練習していた、RIZINで活躍する朝倉海選手とも顔合わせ。刺激になりましたか。
「日本で知名度のあるトップ選手とやったことは、すごく良い経験。日本人らしいところもあったし、日本人離れしたところもありましたね」
――5月のRIZIN42で朝倉選手が元谷友貴選手を膝蹴りでKO。多彩なコンビネーションも見せた。
「相手が元谷選手ですから、あの勝ち方はすごい。ダウンを取ったコンビネーションとかはシンジケートジムっぽかった。やってることは正しいし、少し先のことをやってる。プラスになります」
――コンビネーションは独特のもの?
「体の位置とか、打撃技術の細かいことですね。下を打っておいてアングルをつけてパンチを斜めに打つとか。高さを変えるとか。ボクも昨年、学んだ中で良いと思ったことを、ずっと繰り返し練習。それがやっと良いイメージで出来てますね」
――昨年、シンガポールで開催された「ROAD…」以降の試合について。
「毎回テーマを持ってやってます。一貫して受けに回らず、自分のやりたいことを仕掛けることがテーマですね。受けるシチュエーションをなるだけ作らない」
――今回用意している秘策は?
「スピニングエルボーです。3月の防衛戦でKOした近距離攻撃。練習では危ないのであまり出せない。回転して相手に背を向けるんで、目でみて距離を把握できない技。そのためのコツや裏技はある。次の試合でダウンを取ったり、KOしたら自分のものにしたということ」
――実戦でスピニングエルボーを出す怖さはない?
「そのシチュエーションになったら流れで出るよう練習している。緊張する間もなく、その前に体が動く」
――格闘技のバックボーンは柔道。“柔道タックル”とも言うべき足を引っかけてのタックルも得意技。
「あっちの方が得意技かも。ふふふ。足をかけて倒したり、近い距離だとエルボーにヒザ。近距離戦は得意かもしれない」
――ここまでの準備も万全。「ROAD…」は負けられない戦いですね。
「あんまり気張ってない。いい意味でリラックスしてる。こういう言い方したらあれですけど、3回勝てば契約できる。どんなにつまんなくても勝ちを拾うことだけ。気持ちは入りますけど作り方はいつもの試合と変わらない。3連勝すればいい」
――昨年、1回戦で敗れたイー・ジャー選手も参戦している。
「当たるとしたら準決勝か、決勝かな。試合順は出てますけどシャッフルで変わることがある。別に誰が来ても3回勝てばいい。イー・ジャー選手に決勝でリベンジしたら盛り上がる。団体が違うのでこれまで神田コウヤ選手とも交わることもなかったですけど、決勝で、その2人と当たれば、どっちでもおいしい。イー・ジャー選手はストーリーになる。神田選手なら日本のフェザー級の底上げになる」
――UFCは特別な場所ですか?
「ラスベガスもシンガポールでも見ましたけどほかの団体にはない色。会場で生で見るとまったく違う。ナンバーシリーズは別格。観客全員が立ち上がるくらい盛り上がる。めちゃくちゃケージが遠いのに、みんな釘付け。一人ひとりが感情移入するというか熱量ですよね。選手に対してのリスペクトがすごく感じられる」
――UFCはすべての選手層が厚い。
「どの階級もすごい。誰がチャンピオンになってもおかしくない。選りすぐりの強い選手しかいない。行こうと思っていけるところじゃない」
――ケージに入る瞬間の気持ちは?
「試合するんだなぁ…くらいです。ふふふ。緊張感はありますけど恐怖感はない。向かってくる相手は自分のことを全力で殴りにくるという緊張感。でも自分も同じなんで恐怖心はあんまりない。やるしかない。練習をこれだけやったから大丈夫という感じ」
――減量について?
「計量やコンディション作りで失敗したことはない。ただ運動量は上がるけど、食事を減らさないといけないから、ずっ~とお腹は減ってます。好きなものを満足に食べられないのは精神的に辛い。試合が終わったら食べます」
――練習量は?
「1日2~3時間。ずっとフルパワーやトップスピードではないですけど。仕事がない時は昼やって、夜やって、ずっとやってます。ボク、会社員なんですけど(笑い)」
――会社員は大変ですね。
「日本はファイターだけで食べていくのは難しい。UFCってファイターが尊敬されて活躍したらそれだけでいける。ファイト・オブ・ザ・ナイト(ベストバウト賞)になったら5万ドル。1試合で、もう500万円以上。もし2回取ったら立派なお金持ち。平良選手も取ってるじゃないですか。夢がありますよね」
――UFCを主戦場にする前修斗世界フライ級王者の平良達郎選手の存在は刺激になる。
「王者になったのが同時期。21年7月に修斗のベルトを取った。ほかの選手にとって良い刺激になる。ラスベガスでも少し話しました。尊敬してます」
――UFCはシビアな世界。何が必要だと思いますか。
「ダナ・ホワイト(UFC代表)はビジネスライクです。ボクの中で行き着いたのは、結局、強ければ勝手に人気もついてくる。ハビブ・ヌルマゴメドフやディミトリアス・ジョンソンも最初は、試合が面白くないと言われましたけど、勝ち続けて人気が出た。自分のスタイルを貫いて勝ち続ければ、自分の色になると信じてます」
(※1)23年3月19日に修斗世界フェザー級タイトルマッチを行い、飯田健夫を2R1分49秒、右バックスピニングエルボーでKO。飯田の右に合わせて放った一撃で豪快に決着。
◇佐須 啓祐(さす・けいすけ) 1994(平6)9月30日生まれ、神奈川県出身の28歳。小学5年から柔道をはじめ、日大在学中にMMAに目覚める。16年にプロデビュー。21年7月に工藤諒司に判定勝ちし、修斗世界フェザー級王座を獲得。22年6月に「ROAD TO UFC」トーナメント1回戦でイー・ジャーと対戦。テイクダウンされた際に右ヒジを脱臼し、リアネイキッドチョークで敗れる。14戦11勝2敗1分け。
◆「ROAD TO UFC シーズン2」 UFCとの契約を勝ち取るためのトーナメント。男子のフライ級、バンタム級、フェザー級、ライト級の4階級で行い、アジア9カ国から32人が参戦。シーズン1では、アジア7カ国から32人が参戦。各階級で優勝した4人と決勝進出の3人が契約を果たした。
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