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大阪の夜にカタルシスをもたらした2試合が早くも年間最高試合といわれる件

[ 2016年9月24日 09:35 ]

9月16日、WBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチ 9R、長谷川の左がルイス(右)にヒット

 【中出健太郎の血まみれ生活】国内のボクシングファンや関係者が「最高」と喜びの声を上げた翌朝。ダブル世界戦を主催した帝拳ジムの浜田剛史代表は「まだ9月ですけど、年間最高試合はこの2試合じゃないかと思っています」と言い切った。負ければ引退だった長谷川穂積(真正)が3階級制覇を達成したWBC世界スーパーバンタム級タイトルマッチと、山中慎介(帝拳)がダウンの応酬の末にKOで再戦に決着をつけたWBC世界バンタム級タイトルマッチ。今年は内容や結果がスッキリしなかった世界戦が多いため、現時点で異論はないだろう。

 だが、その話題を振られた山中は複雑そうな表情だった。「それは競った試合だったから。もっと圧倒していれば、そんなこともない。ベストは圧勝ですね」。選手側からすると、受賞は嬉しいものの内容的には必ずしも納得できないのが「年間最高試合」という賞。ただ、勝敗がどちらに転ぶか分からない、ファンをハラハラドキドキさせる試合を生んだマッチメークを評価するのが、この賞の趣旨でもある。

 長谷川とウーゴ・ルイス(メキシコ)の対戦が決まった際、ルイスの代理人のサンプソン・リューコウィッツ氏はあきれた様子だったという。同氏は長谷川が2年前に惨敗したキコ・マルチネス(スペイン)も擁するだけに「マルチネスにあんな負け方して、まだ彼はやるのか?」と。それでも、帝拳ジムの本田明彦会長は「ルイスとは、かみ合うと思っていた」と明かした。ルイスの左右のフックは当たれば試合が終わりそうなほどパワフルだったが、動きも手数も少なく、パンチの軌道も単調。長谷川本来の打たせず打つボクシングが見事にはまった。

 山中は前回判定負けの雪辱を期すアンセルモ・モレノ(パナマ)が攻撃的に来たことで、「結果的に一番面白い試合になった」(本田会長)。4ラウンドに右のカウンターであおむけに倒れた山中が、5ラウンドにも右を食って手をつきそうになった場面では、記者席で最悪の事態も覚悟した。結果的にKO負けしたが、本来は打たせないスタイルのモレノが果敢に打って出た勇気を評価して、この2試合で比べるならバンタム級の方を年間最高試合に推したい。この週はサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)の報道一色だった米国でも、「バンタム級史上に残る一戦」と報じた記者もいる。

 内容的にはルイスが持ち味を出せなかった点が惜しまれるが、スーパーバンタム級の9ラウンドは鳥肌ものだった。ルイスの左アッパーでフラフラとなった長谷川が、ロープを背負って打ち合いに応じ、仕留めに来た王者を後退させて心を折った。米国で最も権威のある専門誌リングマガジンの表彰には「ラウンド・オブ・ジ・イヤー」があり、過去には74年アリ―フォアマンの8ラウンド、85年ハグラー―ハーンズの1ラウンド、88年タイソン―スピンクスの1ラウンドなどが選ばれている。国内の年間表彰にはない部門だが、2016年の「ラウンド・オブ・ジ・イヤー」として記憶に残すべき3分間だと思う。(専門委員)

 ◆中出 健太郎(なかで・けんたろう)1967年2月、千葉県生まれ。中・高は軟式テニス部。早大卒、90年入社。ラグビーはトータルで10年、他にサッカー、ボクシング、陸上、スキー、外電などを担当。16年に16年ぶりにボクシング担当に復帰。リングサイド最前列の記者席でボクサーの血しぶきを浴びる日々。

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2016年9月24日のニュース