子どもの人生狂わせかねない「ご飯至上主義」 体づくりに欠かせぬ食トレの正しい方法とは?

[ 2021年11月10日 08:00 ]

日本会食恐怖症克服支援協会の山口健太代表
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 高校スポーツでよく聞く「食トレ」を正しいと考えてきた。だから「1日7合のご飯でパワーアップ」などと書いてきた。自分の無知を恥じたい。

 日本会食恐怖症克服支援協会の山口健太代表は、高校野球の「食トレ」に苦しんだ。合宿中のノルマはご飯1日7合。朝2合、昼2合、夜3合だった。残して、全員の前で叱責された。これが引き金になった。テーブルに着くたびに「また怒られる」と追い込まれた。いつしか、学校の昼食も、外食も、人の目があると極度の緊張状態に陥り、食事ができなくなった。精神疾患の一つ「会食恐怖症」だった。

 この疾患は、他の人と食事をすると、吐き気、発汗、食事が飲み込めないなどの状態に陥る。発症原因の一つが完食の強要。19年の調査では、642人中21人が、行きすぎた「食トレ」が理由だった。支援団体を立ち上げた山口さんには相談の声が届く。「監督室に呼ばれて完食するまで監視され、食べられなくなった方もいる」。相談者は、野球、サッカー、ラグビー、アメリカンフットボールの選手が多いという。

 公認スポーツ栄養士の坂口望さんは「一律ノルマ」と「ご飯至上主義」の食トレに警鐘を鳴らす。食事量は、体格やこれまでの食習慣によって異なる。「確実に食べられる量から徐々に増やすべき」と示す。

 白米は、他の食材よりも安価なため、手っ取り早く量を取れる手段として用いられた可能性がある。しかし、「糖質である米をエネルギーに変えるためには、ビタミンB群を取らないといけない。おかずを増やさないと、米だけではエネルギーにならない」とバランスが重要だと説く。ご飯の過剰摂取は栄養的に効果が薄いばかりか、「将来的に生活習慣病につながるのではないか」と懸念を抱く。

 スポーツ選手の体づくりに「食トレ」は欠かせないが、「強要」、「ご飯至上主義」などの誤った運用は、子どもの人生を狂わせる可能性がある。指導者も親もそれを忘れてはいけない。山口さんは語る。「食事は楽しく食べた方が栄養吸収率がよくなる研究結果が出ています。食事は心の栄養補給にもならないと」。楽しく、バランス良く食べることが、一番の食トレなのだ。(倉世古 洋平)

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