古川佳奈美が語るパラ卓球の世界 唯一無二の武器修得の鍵はEXILE?

[ 2020年7月6日 07:00 ]

試合を行う古川佳奈美(19年8月撮影)
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 パラ卓球女子で東京パラリンピック内定の古川佳奈美(22=博多卓球ク、知的障がいクラス11)は“しゃがみ込みサーブ”を武器に世界を渡り歩いてきた。普段は明太子の製造工場で働き、休日は新作コスメや洋服を見ることが楽しみな女の子。初の夢舞台出場を前に、思いを語った。

 陸上、水泳、卓球。現在、パラリンピックの実施競技で知的障がいのクラスがあるのは、この3競技のみだ。この中でも卓球は唯一道具を使用する競技で、卓球台の大きさやラケットの規格は五輪と変わらない。一見、健常者の卓球と同じだからこそ、古川の代名詞である“しゃがみ込みサーブ”が生きてくる。

 「このクラスだと、国際大会でもサーブはフォアかバックだけ。どちらかというとラリーで勝負してる選手が多い。このサーブを修得できて良かった」

 その名の通り、しゃがみ込みながら身体全体を使って、ボールに強い回転をかけるサーブは、16年リオ五輪女子シングルス金メダルの丁寧(中国)の得意技でもある。当時から師事していた井保啓太コーチに勧められ2017年に練習を開始。しかし通常のサーブとは打つタイミングやコースの打ち分け、力の加減など全てが違う。知的障がいの選手には修得が難しいとされる高度なテクニックに、覚えることや理解することに苦労した。

 そんな時、井保コーチが古川に授けたアイデアは、EXILEの「Choo Choo TRAIN」のダンスに合わせてサーブを繰り出すことだった。

 「みんなで縦になって回るところ。あのダンスと同じ動き、タイミングでやってみなさいって。実際にやってみたらできるようになった」

 今では同じフォームから、どのコースにでも回転をかけて打ち分けられるようになった。唯一無二の武器を身につけた古川は、18年世界選手権に初出場し銅メダルを獲得。一気に注目を集める存在になった。

 小学4年生の時に、軽度の知的障がいと、自閉症と診断された。中学で卓球部に入部し、3年生で「ただのオープン大会だと思って出場した」という知的障がい選手が対象のユース大会で初出場初優勝。その戦いぶりが関係者の目に留まり、障がいのクラス分け認定を経て、15年から国際大会に出場している。現在は明太子の製造工場に勤務しながら、週6日の練習。試合前には必ず、大好きなコスメで軽く化粧を施すことがルーティンになっているという。

 世界相手に戦ってきた古川だが、パラリンピック出場を明確な目標に定めたのは、去年8月のジャパンオープン以降だという。世界選手権銅メダルを獲得し東京大会で戦える手応えを掴んだが、19年7月に行われたアジア選手権でベスト8。自分の納得行く結果が出なかった。次の大会でダメならば、諦めよう。そう心に決めて臨んだジャパンオープンで、16年リオ大会で金メダルを獲得したウクライナ選手に3―1で勝利。さらに今まで1セットも獲れなかった世界ランク1位のロシア選手相手に、フルセットまで持ち込む健闘も見せた。

 「世界ランク1位の人に負けてジャパンオープンは3位だったけど、もう少しでその人に勝てると思った。ここからは絶対に負けないようにしようと思ったし、必ずパラリンピックに出場して金メダルを獲りたいと感じた」

 待ち望んだ瞬間はやって来た。7月1日に日本知的障がい者卓球連盟は国際卓球連盟(ITTF)からの通知を受け、4月1日時点の世界ランキングで古川の代表内定を発表した。

 「びっくりしたけど、素直に頑張ってきて良かった。本番ではいつもと変わらないが、誰にでも応援されるプレーをしたい」

 古川のシンデレラストーリーは、まだ始まったばかりだ。(小田切 葉月) 

 ◆古川 佳奈美(ふるかわ・かなみ) 1997年7月27日生まれ、福岡県福岡市出身の22歳。18年世界選手権銅メダルを獲得。現在、世界ランキング5位。趣味は映画鑑賞で、1番好きな映画は「ドラえもん のび太の月面探査記(2019年公開)」。好きな食べ物は焼きトウモロコシで、夏祭りに行くと絶対に食べるという。1メートル61、48キロ。

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