追悼連載~「コービー激動の41年」その66 レイカーズとつながるガソルの人生
タイトル奪還に向けてレイカーズが大きく舵を切ったのは2008年2月1日。ドラフト全体トップ指名ながらウィザーズ時代からその能力には疑問符がつけられていたクワミ・ブラウンを含めた3選手と、2回のドラフト1巡目指名権、そして2007年のドラフトで2巡目(全体48番目)に指名してまだNBA入りしていなかったマーク・ガソル(現ラプターズ)を「束」にしてグリズリーズとのトレードを成立させたのである。獲得した選手はたった1人。それがマークの兄であり、スペインを代表するプレイヤーでもあったパウ・ガソルだった。
パウはスペインリーグのバルセロナを経て2001年のドラフト1巡目(全体3番目)にホークスに指名され、すぐにグリズリーズへトレード。まだ欧州出身の選手への評価がさほど高くない時期でもあり、ホークスは当時20歳だった若者の将来性を見極められなかった。
皮肉にもその時のトップ指名選手がブラウン。当時、最晩年の現役生活をウィザーズで送っていたマイケル・ジョーダンの進言があっての指名とも言われているが、だったらまだ2番目にクリッパーズに指名されるタイソン・チャンドラー(その後ブルズにトレード、現ロケッツ)の方が良かっただろう。4番目のエディ・カリー(ブルズ)を含めて上位4人は全員センターなのだが、ウィザーズのチョイスだけが際だって「外れクジ」のように思えてならないドラフトだった。
ではガソルの故郷と少年時代に目を向けようと思う。彼の生家はバルセロナ郊外のコルネーリャにあるが、1980年7月6日に生まれた場所はバルセロナ市内にある「Sant Pau Hospital」。そう彼の名前は病院の名前でもあった。この病院には医師でもある母マリサと看護士長だった父アグスティが勤務。カタルーニャ語のPauはスペイン語だとPablo、英語ではPaulとなるのでありふれた名前なのだが、ガソル夫妻は自分たちの職場で生まれたことを記念してそう名付けたのだと思う。
米国のNBA選手のルーツをたどるとそこには人種差別や貧困といった社会問題が何度も浮かび上がってくるが、そんな中にあってガソル家のインテリ度と裕福度は群を抜いている。レイカーズ時代は小児病院を訪れて闘病中の子供たちを励ましただけでなく、外科手術を見学しようとして(発熱でキャンセル)医学にも興味を示した。
NBAに入ってからも流暢な英語でインタビューに応えていたが、実はフランス語とイタリア語も堪能。だからレイカーズ時代、試合中の微妙なコミュニケーションをイタリア育ちのコービー・ブライアントとする時には、相手に悟られないようにイタリア語、もしくはスペイン語で話をしていたこともあるそうだ。しかもこの時期、元ラッパーだった?ブライアントはガソルの趣味でもあったミュージカルやオペラの鑑賞にはまるようになったというから、2人の関係は濃厚なものになっていた。
1992年6月。バルセロナ五輪を目前に控えていた時期に私は事前取材のためにスペイン入りしていた。6月とは言えバルセロナは暑く、大汗をかきながら各所を回った記憶がある。その時、ガソルがまだ入団する前のクラブチーム「バルセロナ」を取材した。
インタビューを承諾してもらったのは、地元で漫画家としても収入を得ていたフォワードの選手。当時はまだバスケットボールだけで食っていく選手は少数派で、彼もまた自分の技能で副収入を得ていた。練習も40分ほど見学させてもらったが、まあなんとのどかなことか。NBAのメディア非公開のスクリメージ(5対5の実戦形式)ではチームメート同士でラフ・ファイトが起ったりもするが、少なくとも私が見たバルセロナのスクリメージはそんな殺気だった雰囲気はなかった。笑顔をのぞかせ時折ジョークを言っては肩をたたきあう風景。この国のバスケットボールのレベルが急激に上がっていくのは、米国からNBAのスター軍団、いわゆるドリームチームがバルセロナ五輪で圧巻のプレーを見せてから。だからパウ少年も最初はバスケの選手になろうとはしなかった。
最初にやった球技はラグビー。サッカーでなかったところにスポーツへの興味が他の少年より少なかったことがにじみ出ている。ただし自らの人生を大きく変えるニュースが飛び込んできた。1991年11月7日。それはレイカーズだけでなく、まだ11歳だったパウ少年にとっても衝撃だった。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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