障がい者アスリート支援 二宮清純氏とDOSA大島伸矢氏が対談
近年、世界で戦う障がい者アスリートの活躍は広く伝わるようになってきた。一方で、世界で戦える可能性を秘めているのに、障がい者スポーツへの認知や理解の低さから必要な支援を得られず、その可能性が人知れず閉じてしまっているケースが存在するのも事実だ。今回、そんな「世界」を目指すアスリートを支援する活動を続けるスポーツ能力発見協会(DOSA)の大島伸矢理事長(49)と、障がい者スポーツに精通するスポーツジャーナリストの二宮清純氏(60)が対談。同協会のアスリート支援プログラム「DOSAパラエール」や、DOSAがコラボするリクルートキャリア「アスリート応援プロジェクト」などについて活発な意見が交わされた。
二宮 さっそくですが、DOSAを立ち上げたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
大島 DOSA設立の前、07年に立ち上げた会社では、子供に何が向いているか、どんな志向性があるかをチェックするシステムづくりをしていました。私自身が学生時代にサッカーをしていたので、スポーツに特化した能力チェックや、各々に向いているスポーツのアドバイスをできないかと考えるようになりました。その中で、子供向けの体力測定は1964年から方法がほぼ変わっていないことが分かりました。ストップウオッチやメジャーを使ったり、ジャンプ力はひもをつけ、チョークで測ったりしてアナログでした。14年2月に設立したDOSAでは、欧米などから測定機材を導入し、測定方法も変えていきました。
二宮 確かにアナログなイメージがありますね。具体的にはどういったところでしょうか。
大島 64種目の運動能力を分析しました。どの基礎能力が高くて、どのスポーツに向くのか、長所短所を明確にします。これにより例えばサッカーに向いている子の場合は、全体の能力を伸ばしつつ、さらにサッカーに必要な能力も伸ばしていくということがアドバイスできるようになりました。
二宮 「子供がどのスポーツを選択するか」について、従来は〝この道一本でやるように〟という固定観念や、保護者の意向が反映される場合が多かったように思います。
大島 そうですね。私たちは基本的に、子供たちの「好きかどうか」を重視しています。ただ、"食わず嫌い"になることがあるので、測定により向いているスポーツを数種類示し、実際に経験してもらいます。それよってサッカーより柔道が楽しい、またはバレーボールに向いているなどと思えば替えてもいい。
二宮 なるほど。このような先進的な測定機材は日本ではDOSAにしかないわけですね。では、スポーツ能力測定と並行して支援プログラム「DOSAパラエール」に取り組まれた経緯はどのようなものでしょうか。
大島 はい。先ほどの運動能力測定会には障がいを持つ子供たちにも参加してもらいたいと思っていましたが、15年当時はほとんど集まりませんでした。「自分にできるはずがない」「人に見られたくない」「健常者が集う場所に行きたくない」という声が多かったのです。さらに「測定したいけど、(バリアフリーなど適用する)場所がない」という意見もあり、それが支援するきっかけになりました。
二宮 障がい者の方ならではの悩み、理由などがあるのですね。
大島 そうなんです。では、海外ではどうなのかといえば、障がいを持つ人も堂々とされている。例えば、海外では学習の面などでも彼らをケアする社会がきちんとあり、どんどん外に出ていく。日本はどちらかといえばその点で遅れているので、アクションを起こすケースが少ない。障がい者手帳を持つこと自体をためらう場合もあるのです。
二宮 手帳がないとパラの国際大会に出られないという国は日本以外あまり聞かない。
大島 はい。間違いなく国際大会などに出られる能力を持ちながら、申請したくないといって断念した選手もいます。障がい者を特別扱いする空気があり、堂々としたくても人目が気になってしまう。
二宮 ソフト、ハード両面でバリアがまだ残っているということですね。それでは、障がい者アスリートを取り巻く状況はどのようなものでしょうか。
大島 私たちは障がいがあるアスリートを測定するために、それぞれの住居に向かいます。そこで測定可能な種目、能力、平均値、そしてプレーできるスポーツを提示します。
二宮 なるほど。客観的な数値でアスリートの可能性を提示するわけですね。
大島 はい。しかし測定の結果、能力が高く、国際大会の強化指定になれるレベルの選手がいたとしても競技を習う環境がないのです。そこで私たちは4、5年前から各競技団体に「強化指定選手、育成選手が何人いて、代表枠はどれくらいあるのか」をヒアリングしました。例えば当時、代表枠があっても選手そのものがいなかったパラテコンドーでは、競技をしたいという選手が出て日本代表として派遣された途端、いきなり世界大会3位に入ったケースがありました。他にも代表枠はあるけれど選手が少ない、またはいない競技はたくさんありました。スポーツを諦めている人が、チャレンジすれば日本代表やメダルは遠くない!ということを世の中に伝えてあげれば目標を持ってスポーツを始める人を増やせるはず!と思っていました。一方でパラ陸上、車いすバスケットボール、車いすテニスのようなメジャー種目にはたくさん代表枠があるものの、競争率も高い。とても偏っていました。
二宮 (競技団体としては)人数が多ければ補助金が出る場合もあることが大きいのでしょうか。日本は割と選択と集中型ですね。
大島 例えばパラフェンシングも選手層が厚くはありませんでした。私たちが出会った中には、能力があり、競技を始めれば強化指定選手になれるという人がいたのですが、練習場所がない。富山に住んでいて、教えてもらうには京都まで行かなければならない。通えないから諦めるといったケースがあります。
二宮 選手の能力とは別の要因が障壁になるのは残念ですね。
大島 強化指定選手などの肩書がなければ支援もなかなか受けられない現実があり、交通費がないのでスポーツをすること自体も諦めなければいけないという現実をたくさん見てきました。そこで、アスリートに自身のSNSを通じて頑張っている姿を発信してもらうことを条件に、寄付を募って交通費を支援させていただく活動を始めました。
二宮 「DOSAパラエール」の始まりですね。そこから、リクルートキャリアとのコラボも始まったようですね。
大島 はい。19年から行っている「アスリート応援プロジェクト」です。リクルートグループさんには「個の尊重――BET ON PASSION」という価値観があり、リクルートキャリアさんには「どんな時でも、一人一人の可能性を信じ、期待し続ける」という思いがあります。そこが私たちの考えとも合致するということで、お声掛けいただいたのです。
二宮 可能性、という言葉でつながったのですね。
大島 僕らだけでは寄付はなかなか集まりません。さまざまな制約によって「あと一歩」が届かないアスリートたち。そんな「あと一歩」にエールを送るプロジェクトを私たちも一緒にさせていただく。リクルートキャリアさんが企業にいろいろ声を掛けていただいたことで第1期(19年)は15社、第2期(20年)は11社から支援をいただくことになりました。2期は、1社から1口10万円を協賛金として支援していただいています。
二宮 素晴らしい取り組みですね。第2期はアスリート3人を支援されていますね。
大島 車いすフェンシングの千坂香菜選手、パラ馬術の稲葉将選手、パラローイングの成嶋徹選手です。3人が残す結果も大事ですが、我々は3人の努力のプロセスもSNSで発信していきたいと思っています。
二宮 3人にはそれぞれのライフストーリーがあるようですね。
大島 千坂選手は知り合った当時、結婚して、子供が小さかった。子育てがあり練習に行けないという環境だったので、僕らはベビーシッター代を支援しました。その後はトレーナー派遣、競技で車いすを固定する器具を支援しています。
二宮 稲葉さんはいかがでしょう。
大島 稲葉さんの馬術は馬が2頭必要など資金が重要。その馬への投資以外の活動費用をできる限りサポートしています。SNSでの発信も凄く協力してくれています。
二宮 なるほど。成嶋さんはどうですか。
大島 成嶋さんはオリエール病(多発性内軟骨腫症)を患っており、最初は水泳をしていたが、測定の結果、ローイングにマッチングすることが分かり、3年前から始めました。自宅近くにトレーニング器具を設置し練習場所を作っています。家賃やトレーニング器具、栄養アドバイスなどの支援をしています。
二宮 もうこれは社会貢献事業ですね。それでは今後も事業を継続させるために、どういうビジョンをお持ちでしょうか。
大島 健康をキーワードにした時に、スポーツは欠かせないもの。障がいをもつ彼らの能力は凄い。(障がいをカバーすべく)上腕の力が圧倒的に強い人、視覚能力が高い人、聴力に秀でた人、記憶力に優れた人…。そんな彼らの能力をスポーツで発揮できる場を広げていき、そこで活躍するアスリートを見て、社会に出る気になれなかったり、病院やリハビリセンターに通っている人を勇気づけたいと思います。
二宮 なるほど。共生社会実現のため、スポーツの持つ力を社会に還元していかなければなりませんよね。では、最後にメッセージをお願いします。
大島 大切なことは、支援している選手にたくさんメッセージを発信してもらい、同じ障がいを持つ人のヒーロー、ヒロインになってもらうことです。多くの障がい者の方に「スポーツがしたい」と思ってもらうことです。
二宮 私も同感です。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
〇…「アスリート応援プロジェクト」は、自らの情熱と可能性にかけてトレーニングを続ける障がい者アスリートを応援するプロジェクト。企業から参加を募り、アスリートの練習環境を整え、強化指定選手や代表選手として活躍するまでの「あと一歩」を支援している。
【アスリート応援プロジェクト2020 プロジェクト参加企業】
酒井重工業
東京エレクトロン
インター・ビュー
Tigerspike
KMS
KCJ GROUP
ゼブラ
サミット
日鉄ソリューションズ
ディーセントワーク
大泉工場
◆大島 伸矢(おおしま・しんや) 1970年(昭45)4月10日生まれ、福岡県出身の49歳。大学卒業後に就職・起業を経験したのち、07年に能力の精密測定を事業化、知育面で活用するプライム・ラボを設立。14年には体育面で活用する一般社団法人スポーツ能力発見協会(DOSA)を設立し、理事長に就任。子供のスポーツ能力の測定や向上を支援し、障がい者アスリートのサポートも続けている。著書に「子どもが伸びる運命のスポーツとの出会い方」(枻出版社)がある。
◆二宮 清純(にのみや・せいじゅん) 1960年(昭35)2月25日生まれ、愛媛県出身の60歳。スポーツジャーナリスト。スポニチ紙面で「唯我独論」(毎週水曜日)を好評連載中。五輪、パラリンピック、サッカーW杯、メジャーリーグ、ボクシング世界戦などを世界各国で取材。各種メディアでノンフィクションやコラムを執筆、オピニオン活動を展開している。著書に「勝者の思考法」「スポーツ名勝負物語」「最強のプロ野球論」、「プロ野球『人生の選択』」がある。
2020年3月25日のニュース
-
新潟県バスケ協会・大滝会長 Wリーグ1部・アルビレックスBBラビッツ監督就任へ
[ 2020年3月25日 22:48 ] バスケット
-
日本水連 五輪代表選考会兼ねた競泳日本選手権、一転中止 都知事会見受け
[ 2020年3月25日 22:21 ] 競泳
-
東京パラ1年延期で、国内競技団体困惑 知的障がいの選手には精神的な負担も
[ 2020年3月25日 20:57 ] 五輪
-
武藤事務総長 26日に五輪準備の対策本部立ち上げ、“3者会談”も
[ 2020年3月25日 20:17 ] 五輪
-
自転車日本代表・脇本雄太、五輪延期もポジティブ「落胆することなく前を向き続けたい」
[ 2020年3月25日 19:48 ] 自転車
-
日本水連 競泳日本選手権は開催、当初の基準通り五輪代表選考実施
[ 2020年3月25日 19:40 ] 競泳
-
桃田賢斗 東京五輪延期決定に「より一層練習に励んでいきたい」
[ 2020年3月25日 19:22 ] バドミントン
-
自転車・梶原悠未、筑波大卒業式で誓い「さらに仕上がった状態で東京五輪を」
[ 2020年3月25日 18:50 ] 自転車
-
柔道・大野「覚悟を持って準備するだけ」東京五輪延期も不動心
[ 2020年3月25日 16:36 ] 柔道
-
瀬古リーダー「1回くらいはマラソンを」21年五輪へ代表選手に要望
[ 2020年3月25日 15:46 ] マラソン
-
瀬古リーダー「内定者の権利守ってあげたい」マラソン代表は再選考しない方針
[ 2020年3月25日 15:36 ] マラソン
-
アドベンチャーランナー北田氏 子供たちに“生き抜く力”伝授
[ 2020年3月25日 15:30 ] スポーツ
-
張本「今できることを1つずつ」、水谷「強い気持ちを持って練習」東京五輪延期で
[ 2020年3月25日 15:00 ] 卓球
-
羽生結弦がフィギュア最優秀選手、スピードは新浜立也
[ 2020年3月25日 14:47 ] フィギュアスケート
-
八村塁 五輪「1年程度の延期」に「母国での素晴らしい祭典になると信じて…頑張りましょう!」
[ 2020年3月25日 13:31 ] バスケット
-
JPC会長「延期はまさに大英断」 東京パラリンピック延期受けコメント
[ 2020年3月25日 13:09 ] 五輪
-
柔道五輪代表 4月に男子66キロ級も選出へ その後再選考の可能性も
[ 2020年3月25日 13:02 ] 柔道
-
4月日本選手権の位置付け、瀬戸の内定は…日本水連、夕方から臨時常務理事会
[ 2020年3月25日 12:54 ] 水泳
-
バレー石川祐希「位置付けや目標は変わらない」 東京五輪延期に決意新た
[ 2020年3月25日 12:17 ] バレーボール
-
JOC山下会長からアスリートへ「自分自身を奮い立たせて、気持ちを若々しく」
[ 2020年3月25日 11:28 ] 五輪
-
ゴタゴタ続いたラグビー界に見た“一筋の光” アスリートによる意思発信の大切さ
[ 2020年3月25日 11:24 ] ラグビー
-
JOC山下会長、代表再選考は各競技団体任せ「決定を尊重する」
[ 2020年3月25日 11:18 ] 五輪
-
青木功会長「再び夢に向かって努力を重ねてほしい」今平「引き続き最善尽くす」 五輪延期受け
[ 2020年3月25日 11:02 ] ゴルフ
-
クリッパーズがレイカーズの旧本拠地横に新アリーナを建設 バルマー・オーナーが着手
[ 2020年3月25日 10:56 ] バスケット
-
東京五輪延期 中村「気持ちを新たに」鈴木「今後も準備を」 富士通選手がコメント
[ 2020年3月25日 10:56 ] マラソン
-
大関昇進した朝乃山 伝達式の口上で「相撲を愛し、力士として正義を全うし、一生懸命努力」
[ 2020年3月25日 10:00 ] 相撲
-
ラグビー福岡堅樹 五輪延期に「今の自分にできる最高の準備を続けよう!」
[ 2020年3月25日 09:06 ] ラグビー
-
追悼連載~「コービー激動の41年」その38 まさかの大事件 チームに衝撃走る!
[ 2020年3月25日 08:00 ] バスケット
-
障がい者アスリート支援 二宮清純氏とDOSA大島伸矢氏が対談
[ 2020年3月25日 07:00 ] 五輪
-
朝乃山、衰弱する恩師のため幕下優勝決めるも…
[ 2020年3月25日 07:00 ] 相撲
-
東京五輪延期、来年夏までに開催…コロナ終息見通せず今秋断念、正式名称は「2020」のまま
[ 2020年3月25日 05:30 ] 五輪
-
世界陸上、21年→22年開催に変更検討 水泳世界選手権も日程調整へ
[ 2020年3月25日 05:30 ] 五輪
-
東京五輪延期…どうなる販売済みチケット 武藤事務総長「十分配慮していきたい」
[ 2020年3月25日 05:30 ] 五輪
-
森会長、来夏までに新型コロナ終息する根拠問われ「人間の英知が出ないとは思えない」
[ 2020年3月25日 05:30 ] 五輪
-
小池都知事、五輪延期合意に「準備進める」
[ 2020年3月25日 05:30 ] 五輪
-
聖火リレー、26日スタート“消える”…五輪延期受け決断、聖火は日本にとどまる
[ 2020年3月25日 05:30 ] 五輪
-
卓球代表は再選考なし 張本、美誠ら6選手そのまま21年へ
[ 2020年3月25日 05:30 ] 卓球
-
競泳と柔道、東京五輪延期で選考は不透明に…
[ 2020年3月25日 05:30 ] 柔道
-
スポクラ男子代表・楢崎智、五輪延期も闘志高める「目指すものは変わりません」
[ 2020年3月25日 05:30 ] スポーツクライミング
-
東京五輪延期に選手らは…サニブラウン「今やるべきことをやっていくだけ」
[ 2020年3月25日 05:30 ] 五輪
-
女子ソフト、4・3代表選手発表中止「適切ではないと判断」
[ 2020年3月25日 05:30 ] ソフトボール
-
陸上・金栗記念選抜中長距離大会中止 男子マラソン代表の中村&服部が出場計画
[ 2020年3月25日 05:30 ] 陸上
-
パラリンピックも1年程度の延期 例外措置も検討しない
[ 2020年3月25日 05:30 ] 五輪
-
朝乃山、25日大関昇進伝達式 口上に異例の一文字「愛」込める
[ 2020年3月25日 05:30 ] 相撲
-
ゴルフ・倉本強化委員長 東京五輪の延期、秋開催は「不可能」
[ 2020年3月25日 05:30 ] ゴルフ
-
男子ゴルフ開幕戦3週間後に控え、時松選手会長「慎重に判断したい」
[ 2020年3月25日 05:30 ] ゴルフ
-
国内シニア開幕戦「金秀シニア沖縄OP」通常開催へ 2戦目は無観客で調整
[ 2020年3月25日 05:30 ] ゴルフ
-
青木功会長、3選が濃厚 JGTO理事改選
[ 2020年3月25日 05:30 ] ゴルフ
-
高校生Bリーガー・河村、三遠と契約終了「春から大学生になって頑張ります」
[ 2020年3月25日 05:30 ] バスケット