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米国で普及が進む次世代の大腸がん検査「コロガード」とは 1回の検査で92%検出できる信頼性

[ 2024年5月20日 05:00 ]

コロガードで実際に見つかった早期がん
Photo By スポニチ

 がん治療の最前線、米国で働く日本人医師が現場から最新の情報を届ける「USA発 日本人スーパードクター これが最新がん治療」。テキサス州ヒューストンにある米がん研究最大の拠点「MDアンダーソンがんセンター」で治療に取り組む小西毅医師による第23回は、次世代の大腸がん検診「コロガード」についてです。

 ≪従来の方法では2回必要≫

 大腸がんは早期のうちに発見、治療すれば治すことができます。このため、症状が出てからではなく、検診で早期発見することが命を助けるために重要です。

 先日、私の外来に45歳の女性が受診しました。病歴を聞くと「コロガードで検診したら陽性判定され、大腸内視鏡を受けたら本当に大腸がんがありました」とのこと。内視鏡で検査すると、小さながんが直腸にあります。比較的早期の直腸がんなので人工肛門も必要なく、ロボット手術で完全に取り切ることができました。

 ここ最近MDアンダーソンがんセンターの外来を受診する大腸がん患者さんのうち、コロガードで発見されたケースが急増しています。日本ではまだ一般的ではありませんが、今後間違いなく普及していくであろう次世代の大腸がん検診、コロガードについて本日は解説します。

 大腸がんは大腸の中で便にさらされるため、検診の基本は検便検査です。従来の大腸がん検診は、大腸がんから出て便にまじる微量な血液(便潜血)を検出していました。一方、コロガードはひと言でいうと、便にまじる血液に加え、微量の大腸がんDNAを検出する次世代の検便検査キットです。従来の便潜血キットでは、大腸がんを正確に陽性と検出できる率は、1回の排便を採取する1回法で60~70%程度でした。このため通常は2回の排便を採取し、ようやく80~90%弱の検出率を達成していました。一方、コロガードを用いた場合、1回の排便検査で大腸がんの92%を検出できるという驚異的な成績が、医学界で最も権威ある学術誌「The New England Journal of Medicine」に発表されています。

 従来の便潜血検査のもう一つの問題点は、実際には大腸がんがなくても陽性と判定されてしまう「偽陽性」が少なからずあることです。便潜血が陽性となった人のうち、実際に大腸がんが見つかるのは数%程度です。それ以外の多くの人は、結果として本当は必要なかったはずの大腸内視鏡検査を受けることになります。

 一方、コロガードの偽陽性は13%と低率です。コロガードで陽性と出た場合、かなりの確率で大腸がんが見つかることになりますので、従来よりも正確で無駄のない検診が可能となります。検診で陽性と判定されると、その次の精密検査は大腸内視鏡です。大腸内視鏡は体への負担が大きな検査で、2リットルの下剤を内服し、検査中は苦痛を伴うため麻酔が必要なことも多くあります。コロガードでより正確で特異度の高い検診を行うことにより、無駄な内視鏡検査を受けずに済むのは患者さんにとって大きなメリットです。

 ≪保険適用で自己負担ゼロ≫

 コロガードは米国FDA(食品医薬品局)の薬事承認を通っており、45歳以上の人に適用されます。入手するには医師の処方箋が必要ですが、検査はとても簡単です。自宅へ郵送されてきた検査キットに便を採取して郵送すれば、約2週間で結果が送られてきます。コロガードによる大腸がん検査は3年ごとに行うことが推奨されています。検査代金は約650ドル(約10万円)と高額ですが、米国ではメディケア(低所得層向けの公的保険)やメディケイド(高齢者向けの公的保険)、ほとんどの民間保険会社でコロガードの費用はカバーされるため、患者さんの自己負担はゼロです。

 米国の保険会社は現在、がんの予防、早期発見に力を入れています。検診費用を積極的にカバーして、患者さんが検診を受けやすい環境を整えているのです。がんが進んで症状が出てからでは、より大きな手術、抗がん剤など高額な医療費が必要となり、治療期間も長くなります。その分、保険会社が払う医療費も高額となり負担が大きくなります。がんを早期発見、早期治療することは、医療費や治療期間を抑えるだけでなく、患者さんの命が助かることで社会全体の労働力、生産性が担保されます。検診の充実は、患者さんにとってはもちろん、保険会社や社会全体にとって有益だ、というのが米国的な考え方なのです。

 ≪先進国で低い日本の受診率≫

 日本でも便潜血検査は保険でカバーされますし、多くの地方自治体で補助も出るため、無料またはわずかな費用負担で受けることができます。しかし、コロガードのような先進的な大腸がん検診は保険が適用されません。日本における便潜血検診の受診率は、先進国の中でも低率です。さらに便潜血検査を受けて陽性と判定されても、その先の大腸内視鏡を受診する率は極めて低いのが現状です。この原因の一つとして「どうせ精密検査しても何もないことが多いから、苦しい大腸内視鏡は受けたくない」という便潜血検診の偽陽性の多さが、精密検査へ向かう足を鈍らせていると考えられます。

 大腸がんの若年化が進み、社会全体の高齢化が進む日本こそ、がんを早期発見し、治療費を抑えて社会の労働力を担保していくことは社会的な使命です。3年に1度のコロガード検診のように有効性が証明されている先進的な大腸がん検診については、費用対効果をよく検討した上で、適切な費用補助や検診を受けやすい環境を整えることが今後の課題と考えます。

 ◇小西 毅(こにし・つよし)1997年、東大医学部卒。東大腫瘍外科、がん研有明病院大腸外科を経て、2020年から米ヒューストンのMDアンダーソンがんセンターに勤務し、大腸がん手術の世界的第一人者として活躍。大腸がんの腹腔鏡(ふくくうきょう)・ロボット手術が専門で、特に高難度な直腸がん手術、骨盤郭清手術で世界的評価が高い。19、22年に米国大腸外科学会Barton Hoexter MD Award受賞。ほか学会受賞歴多数。

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