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被災地でも拍手 仮設住宅から静かに見守る

[ 2012年7月29日 06:00 ]

 東日本大震災の被災地でも28日、多くの被災者が仮設住宅のテレビなどでロンドン五輪開会式の様子を見守った。スタジアムの華やかさとは違い、いまだ不自由な暮らしを強いられる人も多く「五輪どころではない」の声もあった一方で、日本選手団が登場すると活躍を期待する拍手が起きた。日本代表の選手たちも被災地への思いを胸にロンドンに入っており、気持ちはつながっている。

 津波で甚大な被害を受けた岩手県釜石市の仮設住宅。朝4時すぎに起きてテレビに見入った市非常勤職員松木絹子さん(61)は「世界の人たちが一つの場所に集まる五輪は本当にいいですね」と、華やかなセレモニーに酔いしれた。

 震災から1年以上。被災地の復興は思うように進んでいない。仙台市太白区の仮設団地に住む此田勝男さん(74)は「先祖から受け継いだ物は箸一膳も残ってない。収入もないし、本当は五輪どころではないが、ほかにすることもない」とこぼした。

 ただ、日本代表の活躍に光を求める被災者は多い。同市若林区の自宅が津波で全壊し、同じ仮設団地に住む中沢松次郎さん(80)と妻美佐子さん(73)は「なでしこジャパンの活躍が楽しみ」と声を弾ませた。

 一方、スタンドに手を振りながら歩く選手たちも、被災地への思いを胸に秘めている。旗手を務めた女子レスリングの吉田沙保里(29)は今年1月、岩手県立宮古商業高レスリング部の道場で、部員や地元クラブの小学生ら約40人を指導。「笑顔を見せたらいけないのでは」と悩みつつ、子どもたちの笑顔に逆に励まされ、気がつくと自分も笑っていた。「心のつかえが取れた。大変な災害があった日本に金メダルで元気を」と誓っている。

 陸上ハンマー投げの室伏広治(37)は昨年6月、宮城県石巻市立門脇中を訪ね「一日体育教師」を務めた。その後、韓国での世界選手権で優勝し、生徒たちが「あきらめない」と寄せ書きした日の丸を競技場で広げた。「自分だけのためにしてきた競技に、今は被災地から注目されているという特別な力が加わった」という。開会式には参加しなかったが、被災地からの応援に「言葉で表せないほど感謝している」という。

 卓球女子の福原愛(23)は昨年5月、津波被害を受けた仙台市立東六郷小に卓球台やラケットを贈り、指導もした。同校の子供たちは今年5月、五輪での活躍を願う応援歌をつくり、全校児童で歌う姿を収めたDVDを送った。福原は「もっと頑張らなきゃという気持ちになる」と、子供たちへの思いを胸に世界に挑む。

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2012年7月29日のニュース