×

「けがに感謝」金銀銅の北京で思い強める

[ 2008年9月19日 06:00 ]

自転車の1キロタイムトライアルで金メダルを獲得した石井 撮影・吉村もと

 【北京パラリンピック・自転車】今大会、もっとも注目を集めた日本人選手のひとりが、自転車競技の石井雅史(CP4=脳性まひ)だ。石井は、トラックの3キロ個人追い抜きで銀、1キロタイムトライアル(TT)で金、そしてロードタイムトライアルで銅メダルを獲得した。「金・銀・銅の色の違うメダルを見たので良かった」と笑い、北京での熱い戦いに幕を下ろした。

 圧巻だったのは、得意種目の1キロTT。北京の大観衆の目の前で出した記録は、1分8秒771の世界新記録。会場は熱狂的に沸いた。石井にとって、自転車とは「自分自身」であり、自分を"表現"するものだという。だからこそ、パラリンピックでの金メダル獲得には意味があると考えている。北京が終点とは思っていないが、「とりあえず、ホッとしています」と正直な胸の内を明かす。

 石井は、元競輪選手の72期生。結婚もし、スター街道を走り始めようとしていた矢先の2001年夏、練習中の交通事故で死の淵をさまよった。その後、自転車に乗れるまでに奇跡的に回復するが、感情や言語、記憶などに影響を及ぼす高次脳機能障害と診断され、競輪を引退した。

 2006年に障害者カテゴリーでデビュー。着実に結果を出し、07年にはUCIパラサイクリング世界選手権でチャンピオンに輝いた。五輪の選手も育てる名将・斑目秀雄監督との出会いも追い風になった。「選手をやる気にさせてくれるんです。"アドバイスできることがあるから、練習内容を毎日連絡しろ"って言ってくれる。優しさのなかに厳しさもあり、家族のような存在です。あんな名監督の指導を受けられて、つくづく恵まれてるなって思います」

 現在は、競輪80期台、90期台の選手と一緒にトレーニングを積む。土日はロード100キロを走る。「最初はついていけなかった」ロード練習も、今は最後の直線7キロをMAX60キロくらいで走り、後輩たちを引っ張る。今では、競輪現役時代よりもいい記録が出せるようになった。

 1キロTTを走る前、スタート位置についた石井は、目を閉じ、両手を胸の前で合わせた。「怪我がなければ、私はただの競輪選手で終わっていた。上位にいけるような選手じゃなかったから。それに、家族やチーム、周りのひとたちのサポートのおかげで、いい方にいい方に道が開けて、こういう場所を与えられた。けがに感謝しています」大会前に話していたこの気持ちは、北京でさらに強くなった。(荒木美晴)

続きを表示

2008年9月19日のニュース