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夢は五輪の金メダル 健常者とも戦う

[ 2008年9月19日 06:00 ]

アーチェリー男子団体で4位入賞に貢献した長谷川 撮影・吉村もと

 【北京パラリンピック・アーチェリー】五輪出場を視野に入れ、トレーニングに励む障害者アスリートが増えている。北京五輪には、左ひざ下切断の、南アフリカのナタリー・デュトワがオープンウォーターに出場、右ひじから先がないポーランドのナタリア・パルティカは卓球に出場した。

 北京パラリンピックに出場した、アーチェリーの長谷川貴大(19)も五輪出場を目指す選手の1人だ。現在、早稲田大学のスポーツ科学部1年に籍を置く長谷川は、大学のアーチェリー部に所属している。アーチェリー部は来季からリーグ戦の一部昇格を決めており、競技者としての道を順調に歩んでいる。
 陸上選手だった父や、野球と駅伝の2競技をこなす弟を持つなどスポーツ一家に生まれた長谷川は、運動神経が抜群だった。体を動かすことが好きで遊び場はいつも屋外だった。しかし、小学3年の時に病で右大腿を切断。その後、足がなくてもできるアーチェリーを両親に勧められ始めた。
「障害者の大会だけではなくて、健常者とも戦っていこうね」。競技を始めたとき両親と話した会話は、いつも長谷川の胸のうちにある。
「強くなれば、健常者と互角に戦える」。初めて出場した大会は、障害者の大会ではなく、健常者が参加する全国中学生大会。長谷川がパラリンピックではなくオリンピックへの出場を想い描くようになるのは自然な流れだった。
障害者カテゴリーの大会でも活躍してきた。メダル獲得を期待されたパラリンピックでは、個人戦リカーブ(スタンディング)、男子団体に出場。個人戦では、ランキング7位で好スタートを切ったが、トーナメントでは硬さが出て1/8予選で敗退した。「自分には経験と心の強さが足りない。決勝に残るレベルの選手は、全く震えていなかった」と悔しがった。
そして各国3人ずつで争う団体戦。長谷川は1番手を任された。3番手の小野寺公正が「あいつは気持ちよく打てれば当たる」と話していた通り、試合をこなすにつれて緊張を解いた長谷川は、3位決定戦で10点を2度出した。日本チームとしてベストを記録、団体戦4位に貢献した。
「五輪は、パラリンピックで金メダルが獲れるようになってから見える。今はまだ挑戦権さえ持っていない…」。実力のなさを痛感させられた一方で、会場の大歓声を受けて「アーチェリーは面白い」と純粋に大会を楽しめた長谷川。「大学のリーグ戦、インカレなどにどんどん出て場数を踏みたい。経験を積むことで、大舞台でもリラックスして臨めると思う」とステップアップを誓った。
取材中、長谷川の言葉が弾んだ瞬間があった。スポーツ仲裁裁判所の裁定で五輪に出場できる資格を得た両足義足のランナー、オスカー・ピストリウス(南アフリカ)の話題に触れたときだ。「すごいなと思うと同時に、僕と同じ考え方の選手がいっぱいいるんだなって思いました!」
夢は五輪の金メダル。義足のアスリート、長谷川貴大の挑戦は始まったばかりだ。(瀬長 あすか)

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2008年9月19日のニュース