【G1温故知新】1986年ジャパンC2着 アレミロード
G1の過去の勝ち馬や惜しくも力及ばなかった馬、記録以上に記憶に残る馬たちを回顧し、今年のレースの注目馬や見どころを探る「G1温故知新」。第7回は1986年のジャパンカップで頭差の2着に敗れた英国馬アレミロード。
1986年のジャパンC。直線での長いデッドヒートは歴史に残る好勝負となった。主役はジュピターアイランドとアレミロードのイギリス調教馬2頭。勝ったのはジュピターアイランドだったが、敗れたアレミロードの姿も多くの競馬ファンの記憶に残った。今年のジャパンCには、引退後の種牡馬生活を日本で送ったアレミロードの血を引くフェイムゲームが登録している。
ジュピターアイランドは当時7歳の牡馬。12ハロン近辺の重賞を5勝した実績があったものの、欧米の超一流G1では歯が立たないレベル。一方のアレミロードは3歳牡馬。英ダービーこそ大敗を喫したが、9月末の独G1・オイロパ賞を制していた。若さと勢い…そして名手グレヴィル・スターキーが騎乗することが彼の強みだった。
年の離れた2頭の運命が交錯したジャパンC。実績最上位と評されていたニュージーランドの名馬ボーンクラッシャーが感冒で回避したこともあり、前走の秋天をレコード勝ちしたサクラユタカオーが1番人気。アレミロードは6番人気、ジュピターアイランドは8番人気と、レース前の2頭の評価は決して高いものではなかった。
だが、この8番人気馬の鞍上には世界的騎手パット・エデリーが配されていた。馬群を先導するクシロキングを悠然と眺めるようにアレミロードは2番手につけ、日本勢の人気馬たちもそろって好位をキープしたが、ジュピターアイランドは後方待機。これはエデリーの作戦であった。直線に入ると日本勢は伸び悩み、先にスターキー&アレミロードが抜け出しを図る。そこに馬群を縫うように伸びてきたのがジュピターアイランドだ。先行集団が脚色を鈍らせ後退していくのを尻目に、派手なアクションのエデリーがムチをしならせ追い込んでくる。やがてラスト300メートルあたりから英国馬同士の激しい叩き合いになった。
スターキーとエデリー。実はこの2人の名騎手には因縁があった。同年の英ダービーを確実視されたダンシングブレーヴの主戦を任されていたスターキー。ところが、ペース判断の甘さから大目標で2着に敗れ、それが遠因となって秋の凱旋門賞直前にオーナーと専属契約を結んだエデリーにダンシングブレーヴを奪われてしまったのだった。
ジャパンCの結果は1着ジュピターアイランド、2着アレミロード。敗れたスターキーはレース後、裁決委員に猛抗議した。外から馬を併せたエデリーが“幅寄せ”を行い、アレミロードの進路を妨害した…という内容だった。だが、エデリーに過怠金2万円が科せられたものの、着順が覆ることはなかった。
後日談として、1997年のジャパンCにピルサドスキーの担当厩務員として来日したスターキーが11年越しの無念を晴らす…というストーリーが存在する。引退後のアレミロードは社台ファームに輸入されて種牡馬生活を送ったが、“スターキーのリベンジ”を見届けることなく早世した。種牡馬としては自身の面影をあまり伝えられず、産駒は早熟なマイラーが目立った。したがって、長丁場のジャパンCに出走するような産駒はとうとう現れなかった。
今年のジャパンCに登録している6歳馬フェイムゲームは母の父がアレミロードという血統。近走は不振続き、陣営は去勢という一種の最終手段によって同馬を甦らそうとしている。競馬の世界で無視することのできない “血の記憶”。フェイムゲームからアレミロードの血が繋がる可能性は残念ながら消滅したが、86年のジャパンCで好勝負を演じたスターキーとエデリーが鬼籍に入った今、アレミロードの“30年越しの雪辱”に注目したいところだ。
(文中の馬齢表記は新表記で統一)
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