【宝塚記念】池添、男泣き“オルフェが一番強いんだ”

[ 2012年6月25日 06:00 ]

<宝塚記念>オルフェーヴルの復活勝利に、目を潤ませる池添

 心から泣けた。パートナーを信じて良かった。オルフェーヴルが5冠馬となった宝塚記念。主戦・池添謙一(32)は、相棒の首筋を何度も抱きしめた。2度の敗戦で失いかけたプライドを、最強馬は力ずくで取り返した。

 ゴールの瞬間、池添のトレードマークともいえるガッツポーズはなかった。馬上でうつむき、ひたすら馬に感謝した。オルフェコールと池添コールが交錯する中、左手を何度も握りしめた。相棒の首筋に抱きつくと頬を涙が伝った。

 「本当にきつくて…」。そう答えると、言葉が続かない。涙があふれた。「本当に良かった。この馬が一番強いことをやっと見せることができた」。何とか言葉をつなぎ、馬への感謝を示した。

 感じたことのない重圧だった。阪神大賞典2着、天皇賞・春11着。「池添、もう下りろ!」という声がはっきりと聞こえた。「初めて騎手をやめようと思った。もうG1に乗らない方がいいのかもしれないとも思った」。折れそうな心を支えたのは周囲の人々だった。「家族、そして友人が励ましてくれた」。気持ちを立て直し、栗東近郊で放牧中の愛馬に乗りにいった。相棒の調子はひと息で、宝塚に使えないのではないかとも思ったが、潜在能力を信じた。

 パドックで池江師から声を掛けられた。「馬を信じよう。自信を持っていこう」。その通りだ。もう迷わない。相棒にまたがるとスッと落ち着いた。リラックスして返し馬をこなした。自信は確信に変わった。勝負どころ、心の中で会話を交わした。「大丈夫かい?」「いつでも行けるぜ」。ゴーサインを出したその時、前がパカッと開いた。スマイルジャックとエイシンフラッシュの間を突き抜け、歓喜のゴールへと飛び込んだ。

 全てを相棒にささげてきた。凱旋門賞遠征のプランが持ち上がると、海外レースの映像を見て、イメージを高めた。家庭教師を付けて英語も学んだ。トレーニング法も変えた。追い負けしないよう、ヨーロッパの深い芝に負けないよう、パワーを付けた。

 遠征について、「正式に行くかは分からないし、僕が乗せてもらえるかも分からない」と、多くを語ることは避けた。しかし、人生最大の重圧を乗り切り、騎手として、人間として、ひと皮むけた。世界最高峰の舞台で表彰台に立つその時まで、池添は鍛錬を重ねていくだろう。

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