球児に不人気?の新聞記者職… 公務員、個人事業、会社員を経験した記者が魅力を紹介

[ 2023年2月9日 08:30 ]

22年夏に取材した盛岡中央バッテリー。斎藤(右、オリックス)はプロ野球選手、小笠原は消防士の夢を語った(撮影・柳内 遼平)
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 私は20年4月の入社以来、アマチュア野球担当記者として高校、大学、社会人の選手を追ってきた。現在は3月18日に開幕する高校野球の選抜大会に向けて取材の日々。高校球児への取材では「将来の夢」を聞くことがある。残念ながらこれまで「新聞記者になりたい」と言った選手は一人もいない。「プロ野球選手」が一番多く、「教師」、「消防士」などが続く。高卒で18歳から働いて個人事業、公務員、会社員を経験した私が、記者職の魅力を紹介する。

 人生で初めての職は「プロ野球審判員」だった。会社員ではなく、日本野球機構(NPB)などから仕事を請け負う個人事業主。プロ野球の試合で判定を下し、自らの技量のみで報酬を得ていく職人のような仕事。一番の魅力は選手と一緒にゲームをつくりあげていく達成感だ。一流選手のプレーを適切にジャッジし、ゲームを終えた時の達成感は何事にも代えがたいものがあった。

 ただしNPBの場合、契約は1年契約で大きな病気や故障、技術の低下などがあった場合、次年度の契約を結ぶことはできない。私は26歳の時に退職したが、例えば40歳で一方的に「次年度の契約はしません」とNPBから伝えられたらどうだろう。家族の生活やライフプランは一変する。まさに定年まで「綱渡りの生活」である。もし、私の周辺に「プロ野球審判員になりたい!」という夢を持つ人がいても、まずは他の選択肢を紹介するだろう。

 16年限りで審判員を退職した私は「綱渡りの生活」の逆の職に就いた。同年に行政職の公務員試験を受験し、福岡県福津市に合格。ルールを覚えてジャッジする審判員の仕事が筆記試験に役立ち、監督や選手の抗議に対応してきた経験が面接に生きた。教育委員会でスポーツ担当となり、駅伝大会や水泳大会などを運営。仕事は基本的に平日の午前8時30分から午後5時まで。プライベートの時間が増えて「ワークライフバランス」も充実した。職も定年まで保証され、再任用制度もある。

 だが、個人的には物足りなさもゼロではなかった。行政職は癒着防止のためにジョブローテーション(担当部著の変更)が定期的に行われる。仕事には再現性が求められ、一人の職員が輝くという場面は多くはない。何か一つのことを突き詰め、追い求めていくことは、簡単ではない環境にも思えた。

 年齢的に最後のチャンスと、29歳の時にスポニチに転職し、初めて会社員となった。記者職に就いて4年目。端的にいうと“この仕事は好きじゃないと続かない”。休日にも入ってくるニュースや、夜遅くにもかかってくる野球関係者からの電話。休みの日だから“優雅に昼からワインでも”とはいかない。さほど記者という仕事に魅力を感じず、「ワークライフバランスが大事」という人には向かないだろう。

 だが、野球などスポーツの最前線に関わりたい、選手の活躍や思いを自分の記事で伝えたいという思いがあれば、これほどやりがいのある職はない。審判員時代には試合でジャッジすることが怖く試合直前まで足が震えることもあったが、現在は現場に向かう足も軽快だ。

 明確な人生設計もなく、たどり着いた記者職。遠回りにはメリットもあった。指導者とは教育委員会時代の話で盛り上がり、消防士を目指す高校野球選手には公務員試験の攻略法を託す。審判員時代の経験は、ルールを解説する原稿や選手の力量を計ることに役立った。

 紹介した3つの職はそれぞれ、面白いところも、つらいところもあるし、世の中には他にもたくさんの選択肢がある。野球に青春をささげる選手たち、もし、仕事としても野球に関わりたいのであれば、私は記者職をおすすめします。(記者コラム・柳内 遼平)

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