あらためて問われる社会人野球の存在意味

[ 2020年11月29日 11:30 ]

<NTT西日本・Honda鈴鹿>2回2死一、二塁、Honda鈴鹿・長野が先制2点適時二塁打を放つ(撮影・村上 大輔)
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 【伊藤幸男の一期一会】社会人野球の最高峰、都市対抗野球が佳境を迎えている。出場32チームはコロナ下でも野球に取り組める環境に感謝しつつ、一投一打に全力を注いでいる。スタンドも応援合戦こそ自粛されたが、ファンは懸命に拍手し、ひいきチームの勝利を信じている。例年とは異なる風景だが、球場全体で喜びを共有しているようだった。

 不況は親会社も例外ではない。操業時間短縮、給与カット、人員整理…。選手は野球だけに集中していればいい時代はとうに終わった。就業後に職場ごと集合して、体を動かす。春先の練習自粛期間は社内施設は封鎖されたため、自室などでウエートトレに明け暮れた。

 ただ堪え忍んだ日があるから、今季唯一の全国大会を満喫できる。「開催にこぎつけていただき、感謝してます。練習の成果を出せなくなる。アスリートにとってこんな苦痛はありません」。ENEOS・大久保秀昭監督(51)があらためて大会運営者に感謝した。

 28日の2回戦でNTT西日本に敗れたHonda鈴鹿・長野勇斗(はると)外野手(24)の言葉が印象的だった。8回の右越えソロなど3安打3打点。試合後、スタンドに深々と頭を下げると「練習量は減ったけど、社会人で野球が出来る幸せをすごく感じてます。会社の中でも自分の名前を出してもらえる」と話した。

 14年夏の甲子園。三重の「1番・中堅」として活躍し、大阪桐蔭に敗れたものの準優勝に輝いた。東都大学リーグ・青学大を経て昨春、郷里に戻ってきた。オフ期間に会社主催の野球教室で地元球児と触れあう時も楽しくて仕方ないと言う。

 先週、水戸市で茨城日産自動車が硬式野球部の発足を発表した。同社の加藤敏彦社長(55)は「地域社会に貢献しつつ、約1900人の社員を野球を通じて盛り上げていきたい」と創部の経緯を説明。来春には23選手が入社予定だが、鈴木雅道野球部長(69)は「野球と仕事を両立するのが、本来の社会人野球」と話した。

 都市対抗で優勝することも大事だが、厳しい時代だからこそ社員と一体となって歓喜を共有できるのが社会人野球の魅力の1つだと思う。かつては遠征費などで数億円を要した年間経費も半分以下まで絞り込んでいる。

 新様式の都市対抗は、今後の指針となるかもしれない。 

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2020年11月29日のニュース