【内田雅也の追球】「非常時」の用兵と作戦 岡田監督の采配の妙を見た

[ 2024年5月17日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神9―4中日 ( 2024年5月16日    バンテリンD )

<中・神> 4回、バスターに切り替え、適時打を放った梅野(撮影・大森 寛明)
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 バントの構えからバットを引いて打つ「バスター」は和製英語だ。米国では見たままの「フェイク(見せかけ)バント」や、その後のスイングから「スラッグ(殴りつける)バント」「スラッシュ(切りつける)バント」などと呼ぶ。

 阪神はこのバスターが決まり、相手先発・梅津晃大をKOした。4回表無死一、二塁。1回表2点の後は無得点で、次の得点を奪うか失うかで流れは決まる展開だった。追加点がほしかった。

 打者は梅野隆太郎だった。送りバントでストライク見送り、ファウルで2ストライクとなった。バスターに切り替えて、中前打を放ち、3点目が入った。作戦で活を入れ大量4点を呼んだ。

 梅野は「何とか走者を進めたかった」と話した。記号スラッシュ(/)のように、斜めに振り下ろし、ゴロを転がしたのだ。スリーバントも念頭にある相手守備の裏をつく形となり、二塁手左をゴロで中前に抜けた。

 監督・岡田彰布が動いた一戦だった。自身が監督復帰後初めて大山悠輔を先発メンバーから外した。前日まで16打席無安打と不振が極まっていた。前日は佐藤輝明を2軍に落とした。打線低調は極まり、開幕メンバーでこの日も先発したのは近本光司、中野拓夢と前川右京の3人だけだ。

 できるだけ固定メンバーで戦うのが基本方針の岡田である。誰も口にしないが、「非常時」であることを内外に告げているかのようだ。

 その非常時オーダーが的中した。1回表に1番起用の井上広大が今季初の四球を選んで出塁。4番起用の原口文仁の三ゴロ(打点付き)で先制し、5番起用の糸原健斗が2点目適時打を放った。原口は6回表、今季1号の3ランを放って、勝利を決定づけた。

 試合後、メンバー変更について岡田は「勝つためにやっているんよ」と言った。「調子いい者を使っていかんと、いつまでも待っていられん」。少し前になるが、原口が打撃好調とみていた眼力はさすがである。

 岡田は以前から語っていた。「監督なんて、チームが好調な時は何もせんでええんよ。問題は不調、苦しい時にどうするか。その引き出しを多く持っておくことよ。それが監督の仕事よ」
 非常時の打線に活を入れた用兵、作戦。引き出しから引き出した采配の妙である。 =敬称略=(編集委員)

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