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カメラ式からレーダー式に、そしてまたまたカメラ式……次世代アイサイト発表を機にふりかえるスバル・アイサイト・ヒストリー

[ 2024年4月27日 14:00 ]

■疑似的自動運転デバイスの始まり

●長きに渡って「定速走行」、90年代からちょっと知能化

アクセルペダルを踏まずともスイッチ操作で定速走行するクルーズコントロールはアメリカが発祥で、日本では少なくともクラウン・エイト(1964年)の「オート・ドライブ」の名で存在していた。他社では日産が「ASCD(オートスピードコントロールデバイス)」、ホンダは「クルーズコントロール」の呼称で高級車を中心に展開し、「定速走行」の時代が80年代あたりまで続くことになる。

2代目クラウンの上位版、クラウンエイト(1964年)。V8エンジンを載せたのが「エイト」の由来で、次代は初代「センチュリー」に発展する。
黄色い〇内が「オート・ドライブ」のスイッチ。

90年代に入ると、クルマの電子化にいきなり目覚めた三菱自動車がクルーズコントロールに変革を起こした。レーザー光をクルーズコントロール制御用に用いたデボネアの「ディスタンス・ウォーニング」である(1992年)。

「ディスタンス・ウォーニング」を搭載した三菱デボネア(1992年)。

先行車に向けてフロントバンパーから発したレーザー光の反射時間から距離と相対速度を算出、Dレンジでクルーズコントロール走行中、前車に接近しすぎると警報を発し、さらに距離が縮まるとATが4速から3速にシフトダウンするというものだった。

ディスタンス・ウォーニングを発展させたのが、95年の2代目ディアマンテに搭載された「プレビュー・ディスタンスコントロール」だ。

「プレビュー・ディスタンスコントロール」で走る2代目ディアマンテ(1995年)。
前車との距離がパネルに表示される。これはいまのクルマにほしい。警告もこの画面で表示される。

フロントバンパーからのレーザー発射で先行車との距離を把握するのはデボネアと同じだが、ルームミラー裏に据えたカメラを併用し、「道路上の白線は路面より明るい」という特徴でレーンを認識させるとともに、先行車を画像認識するのが新しかった……カメラをクルマの走行用アシストユニットのうちのひとつに使い始めたのは、実はSUBARUではなく、三菱自動車だったのだ。

ルームミラー裏のカメラは単眼式。レンズもいまのものよりずっと大きい。
そのカットモデル。
カットモデル、別アングルより。

ただし、このカメラは単眼式。そしてデボネアも含め、減速はエンジン制御とエンジンブレーキで行うだけで、ブレーキをかけさせることまではしていない……いまのアイサイトを知るひとは「たったそれだけ?」といいたくなるだろうが、当時としては大変先進的に映り、この時点で学生だった私なんぞは、ディアマンテのカメラを見ただけで「未来がやってきた!」とひたすら驚嘆したものだ。

レーダー発射部。いまはグリル内の三菱ダイヤモンドマーク裏に設置される。
プレビュー・ディスタンスコントロールのシステム図。
2代目ディアマンテ。

●現在主流のステレオ式初登場!

いっぽうのSUBARU(当時、富士重工)は1999年、3代目レガシィ・ランカスターの追加モデルで、カメラを2つ用いてステレオ式にした「ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)」を発売する。

ディアマンテも「世界初」と謳っていたが、こちらSUBARUの場合は、ステレオカメラとして「世界初」だ。

真打ち登場! スバルレガシィ3代目の途中で追加されたランカスターADA(1999年)。
フロントガラス上部中央にステレオカメラを設置。

ADAはこの時点ですでに「車間距離警報」「車線逸脱警報」「車間距離制御クルーズコントロール」「カーブ警報・制御」の4つを有していて、いまのクルマにかなり近づいているが、三菱と同様、まだブレーキをかけさせることはしてはいない。

ただし、当のSUBARUも迷いがあったのではないだろうか。

同じアダプティブ式クルーズコントロールでも、ADAはその後レーダー併用にしたのち、「アイサイト」に改称。以降、レーダー式に徹したり、ステレオカメラ式に戻ったり、はたまた併売したり引っ込めたり……ステレオカメラから片足を離さぬまま他の方式も模索していたことがうかがえる(勝手な推測です)。

●低価格で話題をさらった「アイサイト Ver.2」あらわる

「アイサイトVer.2」を引っ提げて登場した5代目改良型レガシィ(2010年)。

アイサイト史にとって大きなターニングポイントは改良版5代めレガシィ(2010年)の「アイサイトVer.2」だった。

2008年の4代目中盤レガシィで、ADAから改称後の「アイサイト」でようやくプリクラッシュブレーキを実用化し、この時点ではレーダー式クルーズコントロール車も併売していたが、このVer.2は、「何だかんだといろいろやり方を考えていましたが、結局は当初思い描いたとおりの方式で行くことにしました」といわんばかり、ステレオカメラ式に決め打ちしたものだ。

持ち合わせる機能は文末に掲げる年表を参照。

このアイサイトVer.2の話題は、これだけの先進的な機能を、「10万円」という低価格で実現したことだった。正確には、10万円の単独オプションなのではなく、標準装着車と非装着車の車両本体価格差が10万円というトリックがあったことを見落としてはならないが、それにしても、それまでこの種のデバイスはおおよそ35万超もの価格だったから、10万円は安い! まちがいなく安かった!

多少の機能差はあれど、いまはただクルマを買うだけでアイサイト並みの安全デバイスがついてくるが(機能向上で車両価格もそれなりに上がっているが)、疑似自動運転デバイスに大きな広まりを与えるきっかけを作ったのは、「10万円!」の「アイサイトVer.2」だったと筆者は信じている。

SUBARUが車載用ステレオカメラの開発をスタートしたのは1989年だという。カメラを備えたクルマなんてモーターショーのコンセプトカーでお目にかかるくらいで、ナビもバックモニターもない時代に、SUBARUは単眼式をすっ飛ばしていきなりステレオカメラ式を発想し、周囲状況を距離も含めて捉えられないかと考え始めていたのだ。単眼式、ステレオ式が混在しているにせよ、先進安全デバイスの主流がカメラ式となっている2024年のいま、1989年の時点でステレオカメラ式を着想したなんて、たいした先見の持ち主だと思う。

1989年といえば当時の富士重工が経営不振であえぎ、レオーネとジャスティの特別仕様車で食いつないでいた頃だ。私は群馬県の出身だが、当時中学生だった私は、ほんと、われらが群馬発祥の富士重工はつぶれるのではないかと本気で心配するほどに深刻だったのだ。

しかし状況は一変。

この年の1月に「世界戦略車」を謳って発表した初代「レガシィ」が富士重工を不振から救った。中でも、SUBARU史上どころか、日本の自動車史の1ページを飾るほど大ヒットした「レガシィ・ツーリングワゴン」が富士重工を窮地からよみがえらせたのだ。

富士重工(当時)の救世主・初代レガシィ(1989年)。写真はセダン。
初代レガシィのリヤ。
初代レガシィ計器盤。写真は中級機種の1800Vi。
日本に新しく本格乗用ワゴン市場を作り上げた初代レガシィ・ツーリングワゴン(1989年)。
ツーリングワゴンのリヤ。バンモデルを持たず、乗用型に徹したのもヒットの要因かもしれない。
ツーリングワゴンの計器盤。
レオーネ時代からワゴンを造り慣れているだけに、ワゴン荷室の造りは他社より1段も2段も上だった。
造り込み感の高い荷室。

SUBARUは技術について遅咲きの会社で、他社がFRをあたり前としている間、FF技術で先行した。その裏では林野庁からの要請を契機に4WDの研究に着手し、1972年にレオーネ(のエステートバン)で市販化。世間がFFに軸足を移す頃には4WDを主力にしていたが、日本市場ではいつも脇役扱い。2代めレオーネの後半あたりから、誰もが「4WDのスバル」と認めるほど、4WDは富士重工を象徴する技術にまで成長していったが、いまやSUBARUの企業イメージはアイサイトに置き換わり、4WDは完全に脇役にまわった感がある。

SUBARUを救ったレガシィの発売と、やがてSUBARUを象徴することになるステレオカメラの開発着手・・・いずれも出発が、経営不振まっただ中の1989年であることに不思議な縁が感じられてならない。

これまでと同じように、2030年以降もレヴォーグ、インプレッサ、フォレスターといったSUBARUの主力車種を転々としながら、アイサイトは進化していくことだろう。

最後、ちょっとおおざっぱですが、アイサイトの変遷を年表にまとめて締めくくります。

■EyeSightヒストリー ~カメラ、レーダー、またカメラ~

1999年
  9月 
ADA市販化(3代目レガシィ・ランカスターADA)。
     「車間距離警報」「車線逸脱警報」「車間距離制御クルーズコントロール」「カーブ警報・制御」の4機能。

2003年
  9月
 ADA改良。ステレオカメラ+ミリ波レーダー式に(3代目レガシィ・ワゴン3.0R ADA)。
     「追従モニター」「ふらつき警報」「グリップモニター」「前車発進モニター」の4機能を追加。

2006年
  11月
 SIレーダークルーズコントロール新開発(4代目レガシィ)。
     「全車速追従機能付クルーズコントロール」「車間距離距離警報」「先行車発進お知らせ」「定速クルーズコントロール」の4つ。

2007年
  10月 
「次世代ADA」開発発表。

2008年
  5月 
次世代ADAが「EyeSight」の名で登場(4代目レガシィ)。
     「プリクラッシュブレーキ」「AT誤発進抑制制御」「車線逸脱警報」「ふらつき警報」「全車速域クルーズコントロール」「先行車発進お知らせ機能」
    この4代目レガシィではSIクルーズコントロール車も併売。

2010年
  4月
 新型EyeSight開発発表。
  5月 4月発表の新型EyeSightを「EyeSight Ver.2」として実用化(5代めレガシィ改良版)。
     「AT誤発進抑制制御」「プリクラッシュブレーキ」「プリクラッシュブレーキアシスト」「全車速追従機能付クルーズコントロール」「先行車発進お知らせ」「車間距離警報」「車線逸脱警報」「ふらつき警報」

2013年
 10月
 新型EyeSight発表(のちのEyeSight Ver.3)

2014年
  4月
 EyeSight Ver.3を初代レヴォーグに初搭載。
    カメラの画像認識がモノクロからカラーになり、ブレーキランプや赤信号の認識が可能に。
    「プリクラッシュブレーキ」「プリクラッシュブレーキアシスト」「危険回避アシスト」「全車速追従コントロール」「車線中央維持」「車線逸脱抑制」「AT誤発進抑制制御」「AT誤後発進抑制制御」「車間距離警報」「車線逸脱警報」「ふらつき警報」「先行車発進お知らせ」

2017年
  6月
 大幅進化のEyeSight発表、「ツーリングアシスト」機能の追加。
  7月 「アイサイト・ツーリングアシスト」として、マイナーチェンジ版レヴォーグに搭載。

2020年
 10月
 新世代アイサイト・2代目レヴォーグに全車標準搭載。
    (新機能)
    「前側方プリクラッシュブレーキ」「前側方警戒アシスト」「緊急時プリクラッシュステアリング」「エマージェンシーレーンキープアシスト」
    また、高精度マップを活用した新開発の先進運転支援システム「アイサイトX」で、自動車専用道に於いて「渋滞時ハンズオフアシスト」「渋滞時発進アシスト」「カーブ前速度制御」「料金所前速度制御」「アクティブレーンチェンジアシスト」「ドライバー異常時対応システム」も機能。

2023年
  6月
 マニュアルトランスミッション車向けEyeSight開発発表。同年秋発売のBRZへの搭載を予告。
  9月 マニュアルトランスミッション車向けEyeSight、改良型BRZに搭載。
     「プリクラッシュブレーキ」「追従機能付きクルーズコントロール」「車線逸脱・ふらつき警報機能」「先行車発進お知らせ機能」「後方ソナー警報機能のクリアランスソナー」


「カメラ式からレーダー式に、そしてまたまたカメラ式……次世代アイサイト発表を機にふりかえるスバル・アイサイト・ヒストリー」の1枚めの画像

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