塚本ナナミ 「みんながやらないことを」 ドリフト王者目指して米国進出へ

[ 2022年12月7日 08:00 ]

愛車のハンドルを握る塚本ナナミ
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 【牧 元一の孤人焦点】レーシングドライバーの塚本ナナミが米国進出を目指している。「フォーミュラ・ドリフト・プロ1」の女性初のシリーズチャンピオンになることが目標。現在はそのための資金5000万円の調達に向けてスポンサーを募る日々だ。

 なぜ米国進出なのか。塚本はこう話す。

 「日本でモータースポーツは他のスポーツほど浸透していません。私はプロになって10年目ですが、日本国内だけではドライバーとしての仕事の広がりに限界があります。一度海外に出て逆輸入の形で注目してもらいたい、モータースポーツがエンターテインメントとして成立している米国で勉強させてもらいたいと思いました」

 目標を実現するための資金5000万円は巨額。コロナ禍や国際情勢で経済不安がある中、調達はそう容易ではない。

 「これまでは多くのドライバーがスポンサービジネスとして企業にサポートしてもらう形でした。でも、今は企業も大変なので、より広く、一般ファンの方々から応援してもらう形を考えています。もちろん、企業の力がないと5000万円は集まらないので、どんなドライバーなら応援したくなるかということを考え、新しい形を作って行こうと思っています」

 個人や企業が誰かに出資する動機として考えられるのは、個人としては出資対象者が魅力的でその目標や夢に共感できること、企業としては自社のPRなどにつながることだ。それでは、塚本ナナミとはいったいどんな人物なのか…。

 「私は人と同じことをするのが嫌いです。そもそも私のように外国人の血が入っている時点で、日本にいると、同じようにはいきません。もともと標準に当てはまらないし、性格的にもみんなと一緒じゃなくて良いと思っているので、ずっとそれを続けています。人と違うのは良いことだと思います。そのおかげで好きなことを仕事にできているわけですから。私は新しいことをするのが好きです。プロを10年やっていると、先のことを考えるようになります。一度、日本を出てみたい。そうすれば日本の良いところも見えてくるし、海外で経験したことを日本に持って帰れる。みんなが難しいと思うこと、みんながやらないことをやろうと思います」

 ドライバーであるなら、もちろん、レースでの魅力が不可欠だ。過去の人気ドライバーを振り返ると、例えば、F1のアイルトン・セナが思い浮かぶ。

 「セナは6速だけで走ったレースや『セナ足』など伝説が多いです。ドラマのあるドライバーは良いと思います。私は『男っぽい走り方をする』とは言われます。とにかく負けることが嫌いで、人と競って人に勝つことが自分の力になっています。前に人がいると、後ろで冷静に分析して、相手の苦手なところ、自分の得意なところを考えてどうするか決めます。私はライバルがいると強いです。ただ、私たちの競技は道具が占める割合が大きいので、腕の良いドライバーが必ずしも勝つわけではありません。そうなると、その人のキャラクター、人間性が大事になります。私のこの性格が好きな人も苦手な人もいるでしょうが、これから私の素の部分が出るものをたくさん発信していって、興味を持っていただきたいと考えています」

 渡米は来年2月の予定。その後は日本と往復して資金調達を続けながら、目標に向けて活動していくという。今後、より多くの人の関心を集めるためには米国での活動の動画を公開するなどの宣伝が必要だ。

 「ドキュメンタリーを作りたいです。華やかに見える世界の裏側など、リアルなことをお伝えしたい。車が好きでドキュメンタリーを上手に撮れるムービーカメラマンを探しています」

 1人の女性が大きな目標を掲げて米国に渡る。そこには必ず数多くの困難が待ち受けている。しかし、高く厚い壁をひとつひとつ乗り越えようとする姿がドラマチックであることは間違いない。無謀に見えるかもしれないが、だからこそ、面白い。こんな女性が現在の日本に存在することが興味深い。

 「私のことを知っているのは圧倒的に男性が多いですが、女性にも知ってもらいたいと思っています。私の活動を見て『元気が出る』と思ってもらえるとうれしいです」

 この冬、大きな夢が動き出す。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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2022年12月7日のニュース