入江聖奈 五輪金がもたらした新たな友達は「フワちゃん」 らしさ全開&笑顔満開の独占インタビュー(1)
東京五輪のボクシング女子フェザー級で金メダルを獲得した入江聖奈(20=日体大)が単独インタビューに応じた。日本の女子ボクサーとして初の五輪出場と初の金メダル獲得を果たし、鳥取県出身の五輪金メダリスト第1号となる快挙を達成。大会を振り返り、今後について語るとともに、カエル好きで有名になったことから就職のオファーが届いたことも明かした。
(聞き手・中出 健太郎)
――既に練習を再開していると聞きました。
「実戦はしていないんですけど、自分で走ったり筋トレしたり、シャドーしたりって感じです」
――五輪が終わってすぐに?
「帰ってきて次の日ぐらいにはしました」
――次へのスタートですね。
「そうですね。なまらないようにって感じですね。なまる方がめんどくさいんで」
――五輪は疲れましたか?
「合宿は調整というか、疲労をためないように(練習が)1時間ぐらいで大丈夫だったんですけど、大会に入るとフェザー級は中1日、中2日とか、他の階級に比べて(試合の)スパンが短かったので、疲労が取りきれなかった感じです」
――どのような疲れだった?
「首のむち打ちとか取れなかったです。ケアの先生にも“張ってるね”みたいに言われました」
――普段の国際大会と比べても違った?
「いや、そこは変わらないんですけど、(フライ級の)並木(月海)さんはいっぱい休憩があっていいなと思ったので(笑い)。(男子ライト級の)成松(大介)さんなんか、1回戦勝ったら2戦目まで1週間ぐらい空いていたので、ずるいなと思って(笑い)」
――試合では準々決勝からの3試合が厳しかった。
「そうですね。3、4試合目は3―2(の判定)だったので、首の皮一枚という感じでしたね」
――自分の感触と実際の採点が違っていたことは?
「準決勝と決勝は負けたと思ってコールを聞いていました。準決勝も決勝も1ラウンド目を取って、2ラウンド目を取られて、3ラウンド目という展開だったんですけど、3ラウンドはよく取れたなという感じでした」
――相手に取られたと。
「準決勝の判定って、2ラウンドも3ラウンドも取られているのに、たまたまかみ合って(試合の判定は)私の勝ちになったみたいじゃないですか。だからホント、運が良かったんだって感じです」
――本命視されていた林郁ティン(リン・ユーティン=台湾)が初戦でペテシオ(フィリピン)に負けた。
「ペテシオ選手、凄いですね。(自分は)よく決勝で勝ったなと」
――ペテシオには五輪予選で1度勝っている。いい感触があったのでは。
「いや、なかったですね。リン(林)さんとイタリアの選手に勝ってきていたので、相当仕上がっている、予選の時とは絶対に違うと。別人と思って臨むようにしました」
――試合では。
「想定内でした。そんなに踏み込んでこなかったし、パンチにも勢いがなかった。相当苦手を意識持ってるのかな、と考えてやってました」
――1度勝ったのが大きかった。
「ですかね。思ったより来なかったという感じでした」
――向こうも疲れていたのかも。
「銀メダルを決めて燃え尽きたのかも。分からないけど」
――準々決勝に勝ってメダルが決まった。安心した?
「メダルが決まって凄くホッとして、いっぱいご飯を食べられるようになった(笑い)。緊張から解き放たれていたと思います」
――それまでは食事も細かった。
「そうですね。メダルが確定する準々決勝の朝、計量後にバイキング形式でミニトマトを食べようと思ったら、トングの手が震えて。やばい、めっちゃ緊張してるって(笑い)。食べる時も凄く緊張して全然食べられなくて。(普段の)2倍ぐらいの時間をかけて食べ終えました。ホント、やばかったですね。死ぬかと思いました。全然寝れなかったし」
――選手村の生活は。
「めっちゃ暇でした。練習と、ご飯と、ケアの時間以外はずっと部屋にいたので。テレビもなかったので」
――部屋にテレビがなかった?
「なかったので、ずっと携帯とかSwitchを見てました。テレビも借りられるらしいんですけど、相当高くて。何十万円とか」
――五輪に行ったのに他の競技を見ていない。
「見てないですね。見たい競技は携帯で検索して見たりしましたけど」
――選手村で他競技の選手との交流はあった?
「そんなになかったですね。あいさつするぐらいでした」
――あいさつできた人は。
「バレーの石川選手とか、陸上のサニブラウンさん、錦織圭さんとか。水泳男子のみんなが一緒にご飯を食べてて、仲良しだなと思って見ていたりとか」
――本来の五輪なら、もっと交流できた。
「でも、自分シャイなんで。あいさつで大丈夫です」
――交流できたとしても…。
「たぶん、友だちは増えてなかったと思います(笑い)」
――でも、今回の活躍で新たに友だちができたのでは。
「そうですね。昨日も(お笑いタレントの)フワちゃんとDMでやりとりしていました」
――凄い!
「水泳の200メートルバタフライの本多選手とも3回ぐらいテレビ出演が一緒で、しゃべれるようになって。ちょっとずつ交流が広がってます。フワちゃんとも番組が一緒で、マブ(達)って言ってくれました」
――子どもの頃からの夢がかなった。
「ちっちゃい頃から描いていた夢で、実際にかなってしまったんですけども、かなえても自分のボクシングにまだ満足できないし、足りないところはいっぱいあるので、終わりがないという感じですね」
――五輪の試合映像を見て反省点が出てきた。
「決勝だったらクリンチの場面が多すぎて試合がグダっていたので、五輪の試合じゃなかったら絶対に叩かれるなと思って。もっと距離を自分が支配できていたら、相手がくっついてきても下がって打てたのに。反省点が多い試合でしたね」
――一番良かった試合は?
「客観的に見たら、やっぱり初戦ですね。ボディーがいっぱい当たってたので」
――あの試合のボディーは良かった。
「良かったですねえ。完璧に習得できたかなと思ったら、次から打てなくなったので(笑い)、まだまだだって思って」
――準決勝や決勝で3ラウンド目に苦戦した理由は。
「準決勝の時は3ラウンド目はバテていたので、スタミナ的な問題だと思います。決勝は3ラウンドまで体力は持ったんですけど、どうしてもゴチャってする場面が多かった。打ち終わりに動けてないとか、技術的な側面が大きいと思います」
――金メダルなので結果は100点満点だと思いますが、今大会トータルで試合内容の自己採点は。
「トータルでですか…。技術的に?30点ぐらいですかね。初戦で20点ぐらい」
――ずいぶん低くないですか。
「だって私、ジャブとストレートしか基本的に打てないですし、全然まだボクシングを極められてないので。ダメダメですね」
――それでも勝ち続けられた要因は?
「やっぱり左ジャブがよく当たって1ラウンド目を取れていたので、5試合トータルで。左ジャブが機能してくれたのが大きかったですね」
――右カウンターもよく決めてポイントを取っていた。
「そうですね。ジャブとストレートで金メダルを取れたので、あとはフックとボディーを打てたらもっと最強になれちゃうと思うので、頑張りたいです」
――インターバルの声に緊張感が感じられた。
「緊張しました。ポイントを取れているか凄く不安になってましたし。でも、本(博国)監督が試合前に“なるようになるから、楽しんでおいで”って言ってくれて。それで結構リラックスできたところはありました」
――本監督がうまくコントロールしてくれた。
「自分は合いましたね、波長が。勝つぞ、勝つぞじゃなくて、楽しんでおいで、と言われる方が楽なので、私としては。でも、ずっと“帰りたい、帰りたい”と言ってて」
――帰りたい?
「家に帰りたい、ボクシング好きじゃないって(笑い)。面白かったです」
――人柄がいい。
「いいですね。ボクシングのコーチって結構ガツガツしている人が多いじゃないですか。本監督みたいな人、いいですね」
――メンタル面で成長できたと感じる部分はありますか。
「ないですね。逆に金メダルを獲っちゃったので、これからは金メダリストって目で見られるので嫌ですね。練習でパンチをもらって“あ、金メダリストがもらった”と思われる」
――今後の試合でもプレッシャーがかかってくる。
「(11月に出場予定の)全日本選手権とかもそういう目で見られるだろうし、ちょっと変な緊張しちゃいますよね。今まで何も失うものがなかったから。これまで、(日本を)背負う役は並木さんがしてくれていたと思うんですけど、日本のエースとして。自分にもその感じが来ると思うと嫌ですね、はい」
――年内の出場は全日本選手権だけで、来年がアジア大会と全日本。元々このスケジュールだった?
「いや、本当は(10月開催予定の)世界選手権に出ようと思ってたんですけど、(所属ジムの)伊田会長とか(女子代表の)浅村監督とか、両親も“休んだら?”という感じだったので。13年間頑張ってきたので、ちょっとぐらい休んでも罰は当たらないかなと思って、欠場することにしました」
――既に世界一になってしまった。
「まだ余韻に浸った方がいいよと言われたので(笑い)。もうちょっと味わいます」
――アジア大会でもマークがきつくなる。
「たぶん、五輪よりアジア大会の方がレベルが高い気がします。ペテシオ選手もいるけど、どうなんだろう。引退するのかな? リン(林)さんはリベンジに燃えて絶対に上がってくると思う。(五輪予選のように)またダウンを取られるのかと思うと、嫌ですね」