「ふざけんな、コラ!」山中慎介 怒り以上の叫び 台無しになったリベンジ舞台

[ 2020年5月29日 05:30 ]

計量をクリアできず王座をはく奪されたネリに怒りの声を上げた山中
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 【忘れられない1ページ~取材ノートから~】プロボクシングで国内歴代2位となる世界王座12度の防衛に成功した山中慎介(帝拳)は18年3月1日、ルイス・ネリ(メキシコ)との再戦に2回TKO負けして引退した。同年2月28日の前日計量でネリが大幅な体重超過を犯し、17年8月に山中から奪ったWBC世界バンタム級王座を剥奪される醜態。約半年をかけて目指してきたリベンジの舞台を台無しにされ、山中は怒りをあらわにした。(中出 健太郎)

 「ふざけんな、コラ!」

 ネリの体重が55・8キロと発表された瞬間、怒声が響いた。相手をにらみつける山中の目は血走っていた。バンタム級のリミット53・5キロを2・3キロもオーバーし、1階級上のスーパーバンタム級のリミット55・3キロすら上回る、階級制の競技ではあり得ない数値。山中自身は53・3キロで一発パスすると、涙を浮かべて控室へ消えた。

 17年8月に4回TKO負けしたネリとの再戦。対戦相手をリスペクトし、試合前に挑発するような言動はしてこなかった山中が、ネリとは再会しても握手せず、いら立ちを募らせていた。ネリは山中との初戦前の検査で禁止薬物に陽性反応を示しながら、メキシコに本部があるWBC(世界ボクシング評議会)の“大甘裁定”で処分なし。再戦へ向けた来日では愛人らしき女性を連れ、山中陣営が用意したメキシコ製グローブの使用を拒否するなど、お騒がせに事欠かなかった。揚げ句の果てに、最初からクリアする気が感じられない体重を示されては、この一戦に全てを懸ける山中が激怒するのも無理はなかった。

 「これで山中のコメントを聞いて」

 帝拳ジムの本田明彦会長からガラケーを渡されたのは2時間後。再計量で54・8キロと1キロしか落とさなかったネリの王座剥奪が決まった後だった。計量後の取材は通常、水分や食事を摂取した選手を囲んで早めに終わらせるが、この時は山中が調整優先で再計量を待たずに引き揚げ、話を聞く時間がなかった。おそらく本田会長は目の前に顔なじみのベテラン記者がいたため、“代表取材”を託したのだろう。突然の“ご指名”に慌て、周囲の記者に聞かせるためスピーカーホンに切り替える配慮も忘れて、ガラケーから聞こえてくる山中の声をノートに書きなぐった。

 「両者万全の状態でやりたかったし、相手にも期待していた。ちょっと信じられないというか、いらつきがあったので、思わず口から出てしまいました。本当に悔しかった」

 “ふざけんな”の理由を説明する山中の口調は重く、途切れがちで、怒りを通り越したむなしさが伝わってきた。再戦へ向けた取材で山中から何度も聞かされたのが、周囲への感謝と日々の充実。ネリのドーピング疑惑に加え、セコンドのタオル投入も早かったとはいえ、初戦で完敗した自分に再戦のチャンスを与えてくれ、王者でなくなっても家族や関係者は変わらずサポートしてくれた。自身も調子が上がらない中、苦手な接近戦に必死に取り組んできた。そんな積み重ねを踏みにじる、意図的とも取れるネリの体重超過に、気持ちが切れてもおかしくない。最後は「万全のコンディションで臨んでください」と励まし、通話を終えた。 

 翌日、山中は4度倒され、試合後に引退を表明した。ゴング2時間前の体重はネリが60・1キロ、山中は59・2キロ。わずか900グラムの差だったが、楽に体重を戻せたネリと減量のダメージが蓄積していた山中が同条件とは言えなかった。山中の気持ちが切れたとは思いたくないし、体重問題がなくとも結果は同じだったかもしれない。しかし、悔いなくラストファイトへ臨めたかというと、それは絶対に違う。テレビで生中継もある興行を前日に中止する判断はかなり難しいが、この試合だけはやるべきではなかったと今でも思う。

 「最近、(体重超過が)当たり前のように起きている。もっと(ルールを)厳しくしてもいいかな」

 電話の向こうの山中は、故意を含めた計量軽視の現状を嘆いていた。ネリは日本から事実上の永久追放処分を受けた。体重超過に罰則を設ける国内規定が定められたのは、半年後の9月だった。

 《前年(2017年)のタイトルマッチで初黒星、V13ならず》山中は2回途中から積極的に出てきたネリの勢いを止められず、4回に3度目の波状攻撃を受けるとトレーナーが独断でタオルを投入。プロ30戦目で初黒星を喫し、具志堅用高に並ぶ13連続防衛の日本記録を逃した。しかし、ネリが7月にメキシコで受けた検査で禁止薬物ジルパテロールに陽性反応を示していたことが8月23日に判明。WBCは汚染肉から摂取した可能性があり、意図的摂取の証拠がないとして処分を見送り、山中をランキング1位として2人の再戦を指示した。

 《TKO負け引退へ》ネリが再計量でもリミットを1.3キロオーバーし、王座剥奪が決定。陣営はドーピング違反を防ぐため水を事前に大量摂取しておく新たな減量法が失敗したと釈明した。当日正午の計量でネリが58.0キロを下回る57.5キロだったため、山中が勝てば新王者となる条件で試合を開催。山中は1回に1度、2回に3度ダウンしてTKO負けした。ネリは日本ボクシングコミッション(JBC)から無期限活動停止、WBCから6カ月活動停止処分を受けたが、19年11月にも体重超過により試合中止を引き起こした。
            

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