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どうなる「耳」でのジャッジ 防音ヘッドセットで公正な採点?

[ 2016年4月11日 17:20 ]

WBCバンタム級王座の10度防衛を果たした山中慎介(左)に特製腕時計(左腕)とベルトを模した腕輪(右腕)を贈ったWBCのマウリシオ・スライマン会長

 ボクシング団体WBCのマウリシオ・スライマン会長が先日、日本ボクシングコミッション(JBC)を訪れ、WBC世界バンタム級王座の10度防衛に成功した山中慎介(帝拳)を表彰した。山中の能力を高く評価する同会長は歴代の名王者に贈られている高級時計メーカー・ウブロのWBCチャンピオンウオッチなどを贈呈するとともに、「ヤマナカは永遠にバンタム級の王者であり続ける」と最大の賛辞を送った。

 スライマン会長が今回来日したのは表彰を行うこと以外にもあった。終始和やかムードで進んだ表彰の後、WBCが推し進めている新たな取り組みを披露した。その一つが「リングオフィシャルの管理」だった。「試合はレフェリー(やジャッジ)の手の内にかかっていると言っても過言ではない」と同会長が話したように、判定までもつれ込んだ場合、ジャッジの採点が勝負を左右することになる。公正な採点にするべく、WBCが採用しようと試みているのが「防音ヘッドセット」の装着だ。外部の音を遮断することで、場内の歓声などに惑わされることなく「目」でジャッジできるようにしようというのだ。昨年10月から、メキシコ、パナマ、フィリピン、ロシア、フランス、スペイン、ラトビア、ドイツなどで試験的に導入されているという。

 JBCによると、ラウンドごとの採点の基準は(1)有効なパンチによって、どちらが相手により深いダメージを与えたか(2)どちらが、より攻撃的だったか(3)どちらがよりディフェンス技術を駆使して相手の攻撃を防いだか(4)どちらの試合態度が堂々としていて、戦術的に優れていたか。どちらが主導権を握っていたか――となる。確かに、防音ヘッドセットを装着すれば集中して採点に取り組めるはずだ。だが、その一方で「耳」による判断は完全に排除されることになる。

 実際に試合を間近で見たことのある方ならご存じかもしれないが、パンチがクリーンヒットしたときは、そうでなかった場合と音が違う。それは骨をきしませるような鈍い音であったり、ひときわ大きな衝撃音だったり…。パンチが当たった瞬間に死角にいたジャッジは、それを聞き逃してしまうことになる。

 WBCは防音ヘッドセットの効果について「まだ実験段階だが前向きな結果を得られている」という。WBCと良好な関係にあるJBCの秋山弘志理事長も「いいものは取り入れていきたい」と話しており、近く日本で導入される可能性もありそうだ。公平を追求することによって、排除されてしまうかもしれない「耳」でのジャッジ。命懸けで闘っている選手に対して、ジャッジも五感全てを駆使して判断してもらいたいと願う記者には、いささか違和感が残った。(佐藤 博之)

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2016年4月11日のニュース