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井上、最速2階級制覇の裏側(2)左脚けいれん…覚悟決めた

[ 2015年1月28日 11:20 ]

自らの判断で作戦を変更し絶体絶命のピンチを乗り越えて勝利した井上

 昨年4月6日のWBC世界ライトフライ級タイトルマッチで左太腿裏がけいれん寸前となった井上尚弥(21=大橋)はスタンスを広げて、小刻みに動くようにした。なるべく脚に負担がかからない工夫だ。だが、動けるエリアは限られる。機動力を失った井上は4回以降、次第にエルナンデスのパンチを浴びる回数が増えた。5回に入ると足を止められ、打ち合いに付き合わされた。

 5回が終わった時、井上は決断した。セコンドからは「(足を使って)自分の距離を取ってカウンターを狙え」という作戦指示だったが、もはや脚の状態は限界に近づいていた。「あと7回あることを考えると、ここで行かないとヤバイ」。打ち合いを仕掛ける覚悟を決めた。

 6回、井上は完全に足を止めた。「打たせず打つ」を理想とする男が、プロになって初めて「打って打たれる」接近戦に臨んだ。頭を突き合わせ、打たれたら打ち返す。パンチの交換を繰り広げると会場が沸いた。

 「怖さはなかった。逆に楽しくなりました」。接近戦は相手の土俵だったが、もともと苦手ではない。高校生の頃から、現在所属する大橋ジムに出向き、激闘王の異名を持つ元世界2階級制覇王者の八重樫東と激しいスパーリングで打ち合ってきた。「引き出しはありました」。近距離からエルナンデスをしのぐ強打を次々と打ち込んだ。

 勝負が決したのは2分すぎ。井上が怒とうの攻撃を仕掛け、左アッパーで相手の上体を起こさせたところに、肩越しからこん身の右ストレートを叩きつけた。顎に一撃を食らった王者は前のめりに崩れ落ちた。

 絶体絶命のピンチに陥っていたことを井上陣営以外が知るのは、試合後のことだ。はたから見れば、足を使っても、止めても強い井上の完勝だったが、「3回までは完璧。それがあんなに崩れるとは思わなかった」(父・真吾トレーナー)、「正直逃げ切りはきついかと思ってた。綱渡りだった」(大橋秀行会長)と冷や汗ものの勝利だった。

 自らの判断で作戦を変更し、アクシデントを乗り越えた井上は「試合で脚がつりそうになったのは初めてだったけれど、冷静でいられました」と、事もなげに言ってのけた。それにしても、突然左脚がけいれんを起こしそうになったのは、なぜだったのか。井上は「減量です」と即答した。

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2015年1月28日のニュース