山中　圧勝Ｖ７も連続ＫＯ止まり「すみませんでした」

＜ＷＢＣバンタム級ＴＭ　山中慎介・スリヤン・ソールンピサイ＞７度目の防衛に成功した山中だがＫＯできず観客に詫びる

ＷＢＣ世界バンタム級タイトルマッチ１２回戦 ○王者・山中慎介（帝拳）　判定　同級１位スリヤン・ソールンビサイ（タイ）●

（10月22日 代々木第２体育館）
　ＷＢＣ世界バンタム級王者の山中慎介（３２＝帝拳）が同級１位のスリヤン・ソールンビサイ（２５＝タイ）を３―０の判定で下し、７度目の防衛に成功した。３度のダウンを奪ったが、世界戦の連続ＫＯ防衛は５でストップ。ＷＢＡ世界ライトフライ級王者だった具志堅用高（７７～７９年）の６連続の日本記録には惜しくも届かなかった。

　異例の光景が山中への期待の大きさ、そして山中自身の強い責任感を示していた。終了のゴングに観客席からため息が漏れ、王者は敗者のように四方のファンに頭を下げた。「ＫＯできなくて、すみませんでした」。ダウン３度を奪う圧勝だったが、日本記録に並ぶ世界戦６連続ＫＯ防衛を逃した悔しさが残った。

　ＫＯ負けのないスリヤンはタフだった。身長で１０センチ、リーチでも１３センチ劣る元世界王者は頭を下げて山中の懐に飛び込み、距離をつぶしてきた。くっついては粘っこく手数を出す。４回の公開採点はジャッジ２者がドロー、１者がスリヤンを支持した。だが、王者は「焦ることはなかった」。自分の間合いを探って「神の左」がさく裂したのは７回だ。左ストレートが顔面を捉えると、右、左と続けて、ロープ際まではじき飛ばした。８回にも左ストレートでダウンを奪った。９回には抱え投げられそうになる反則行為（減点１）を受けたものの、すぐさま左ボディーでダウンを奪った。

　ただ、畳み掛けるチャンスを生かせなかった。「顎に当てられなかった。相手がうまくて、気持ちが強かった」。急所を攻めきれずにＫＯを逃　した。７回に奪ったダウンの際はニュートラルコーナーへ下がらずにレフェリーの注意を受け、時間を浪費する間に相手がゴングに救われたのも「１０カウントになったかもしれない」と認めた反省材料だ。

　憧れの存在に手が届く位置にいた一戦。山中にとって具志堅氏は特別だった。他の日本人選手の映像はほとんど見ないが、レジェンドの試合だけは何度もユーチューブを見た。「狭いスタンスからきれいな打ち方をする。勉強になるんです」と同じ左構えのＫＯパンチャーを手本にした。試合後のオフは沙也乃夫人（２９）の実家のある沖縄に帰るが、昨年１１月には具志堅氏の故郷・石垣島にも渡った。用高記念館にも足を運んで入手した似顔絵入りのシールを携帯電話に貼り、携帯電話が壊れた今は自宅の冷蔵庫に大事に貼っている。

　この日の戦いで偉大な王者に肩を並べることはできなかったが、序盤の劣勢にも動じない山中の強さが際立った。左ストレートの破壊力もあらためて示し「相性的に一番悪い相手に大差で終われて、自信になった」と胸を張った。来年は海外進出、そして他団体王者との統一戦に乗り出す。「バンタム級最強を示したい」。大きな舞台に立つ準備は十分整っている。

　▽山中―スリヤンＶＴＲ　山中が３度のダウンを奪って判定勝ち。立ち上がりは果敢に前へ出てくる挑戦者に押されたが、相手の攻め手を見切ると得意の左を打ち込む場面が増えた。７、８、９回と左の多彩なパンチで倒した。スリヤンは打たれ強さを見せ、距離を詰めてからの右を狙い続けたが、王者に先手を取られ始めると打開策を見つけられなかった。